佐賀県小城市の老舗の酒蔵で27日、今シーズンの仕込みがすべて終わったことを祝う伝統行事「甑倒し」(こしきたおし)が、4年ぶりに行われました。
◆シーズン最後に焼酎を仕込む

早朝6時半。佐賀県小城市の老舗の酒蔵「天山酒造」では、蔵人たちが今シーズン最後の仕込みを始めていました。
蔵人「これで今年分が最後なので、皆さんにおいしいものを届けられるようにと思って作っています」
日本酒に加え、米や麦の焼酎も造るこの酒蔵では毎年、シーズンの最後に焼酎を仕込みます。
RKB永牟田龍太「せいろの中では、蒸気で麦を蒸しています。このせいろを、酒造関係者は甑と呼びます」
蒸した麦を外気で冷やした後、水や醪(もろみ)などと合わせて棒でかき混ぜる「櫂入れ」が行われます。
蔵人「半年近く作っていたが、これで最後の仕込みとなるので、やっぱり一番うれしい日」
◆秋から春まで続く酒造り

酒米の収穫を終えた秋から仕込みが始まり、次の年の春まで続く酒造り。かつては、すべての仕込みを終えた日に甑を横に倒して片付けたことから、その日を「甑倒し」と呼びお祝いをするのが恒例です。
杜氏 後藤潤さん「酒造り28年やっているが、甑倒しは特別な日で、無事に終わったという安どの気持ちが一番ある。佐賀県は原料米を確保するのに苦労したが、お酒に仕込んだときはお米のうまみがしっかり出た、おいしいお酒になったんじゃないか」
仕込みを終えた蔵人たちが、そろいの法被をまとって準備を始めました。
「ようやく創業以来続いた甑倒しが復活します。振る舞いながら皆さん元気よく行きましょう、行くぞー」「わっしょい」
◆久しぶりのふるまい酒

天山酒造は1875年の創業以来、「甑倒し」の日に、絞りたての新酒を地元の人たちに振る舞ってきました。蔵人たちはみこしに酒樽を載せて、滝と名水で知られる清水観音まで約4キロの道のりを駆けめぐります。地域の人たちは、それぞれの容器を手に家から飛び出してきて、酒を注いでもらいます。
RKB永牟田龍太「私もいただきます。米の香りが口いっぱいに広がって、日本酒のすっきりした辛口がおいしい、味わい深い」
久しぶりのふるまい酒を味わって、みんな笑みがこぼれます。
地元の人「おいしかったです、たくさんいただきました。甑倒し、待っとった。伝統だから続けてほしい」「華やかで味もすっきりしていて、天山ファンとしてはすごくうれしい」
◆“豪雨、新型コロナに負けない”

天山酒造の甑倒しが前回行われたのは2019年。この年の8月、九州北部を襲った記録的な豪雨で、酒蔵は水浸しになり大きな被害が出ました。さらに、次の年から感染が拡大した新型コロナの影響で、一時は売り上げが3割ほど落ち込み、感染防止のために甑倒しの伝統も3年間、途絶えてしまいました。
4年ぶりにふるまう新酒には、数々の苦難を乗り越えた喜びを、地域の人たちと分かち合いたいという思いも込められています。
初参加の蔵人「うれしいですね、交流がより深まれば」
杜氏 後藤潤さん「4年間していなかったので、皆さん待っていらっしゃって、改めてうれしかった。コロナも落ち着いてきて、製造量も去年より増えてきている。お酒は嗜好品だが、飲んでいただいた方に笑顔になってもらうのが一番の望みなので、そういう酒を造り続けていきたい」







