日本の庶民が担う役割

挑発的にも映る中国のやり方に対し、私たち一般の日本人こそ、冷静にならなくてはいけません。

日中関係が緊張した今、些細なことでも、日本において日本人と中国人観光客との間でトラブルが起きたり、中国人経営の店に嫌がらせをしたりすれば、中国メディアを通じて国内で大きく報道されてしまうかもしれません。それは、中国政府が望む「やっぱり、日本は危ない」「野蛮な国だ」というイメージを補強し、相手の思うツボになりかねません。

心の中で怒るのは自由ですが、どう振る舞うべきかという問題は別です。インバウンドは減りそうですが、それでも多くの中国の方たちが日本を訪問しています。以前にも紹介しましたが、彼らは我々日本人の振る舞いを観察しています。たとえば「青信号で横断歩道を渡る」「観光地ではゴミは捨てずに持ち帰る」といった、当たり前の規範や価値観を彼らはウオッチしているのです。

私は「日本人は優れている」という、国家や国民の優位性を強調する一部の声には同調しません。しかし、こんな時だからこそ、我々が培ってきた規範、価値観を大切にしたい。日本を訪れ、日本人の所作を観察している中国人インバウンドは、「あれ? 中国で政府が言っていることと違うぞ」と気づくはずです。日中関係の今後は、我々ふつうの庶民の振る舞いが、小さな役割を担っています。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める