減り続ける子供、増え続けるペット

中国でも、子供をもうけない若いカップルが増えている。ライフスタイルの変化、それに経済的負担も大きい、というのは日本と同じだ。その結婚件数だが、今年上半期(1~6月)、中国の婚姻の数=役所に婚姻届を提出したカップルの数=は343万組。前年の同期比で約50万組減った。これは日本の厚労省に相当する中国民政省の統計だが、1年前に比べ、実に13%も結婚するカップルが減少したことが明らかになった。10年前に比べると、なんと半分に減っている。

習近平政権も、当然、対策を講じている。子供を3人までは産んでいいという政策に方針転換して間もないが、地方政府の中には独自の政策、つまり、子供を2人以上産んだら、その夫婦に奨励金を出す、といったケースも現れている。

ちょっと視点を変えてみたい。英国の経済新聞フィナンシャル・タイムズに8月3日「なるほど」と思う記事が載った。タイトルは「中国都市部で飼育されるペットの数は今年、乳幼児の数を上回る見込み」。つまり、「犬や猫に代表されるペットは増え続け、一方で、4歳未満の小さな子供はどんどん減り続け、今年ついに逆転されてしまう」という内容の記事だ。

ペットを飼うのは、結婚しない若い世代、子供を持たないカップル、かたや孤独感をまぎらわせようと考えるのか、高齢者の間でも、動物を持つ人が増えているという。「ペットが映し出す中国社会」と言ってよいのかもしれない。

経済専門紙らしく、ペットの話を紹介しながら、中国で少子・高齢化が加速すれば、マーケットとしての中国、投資先としての中国の今後が、不安視される――記事はそう締め括られていた。少子化に歯止めがかからないと、経済や社会保障を支える働き手が減る。税収が減る。そして年金を受ける方の高齢者は一方で増える――。日本と同じだ。

やっと手を付けた定年引き上げ

これも最近のニュースだが、働く人の退職年齢が今後、段階的に引き上げられる。中国の定年はこれまで70年以上据え置かれてきた。これを来年から改定する。現行は原則として男性60歳、女性50歳の定年を徐々に延長し、15年後までに男性63歳、女性55歳にする。

これについては、やっと手を付けたという感じだ。社会主義国として「早く引退して、あとは年金生活」を望む考えは、今も根強い。ただ、高齢化がどんどん進み、労働人口が減る。追い立てられようにして、促される形で習近平政権が決断したのだろう。

こう見ると、改めて「一人っ子政策」の功罪を考え込んでしまう。中国が様々な分野で、高度な技術開発を進めるのは、国際的に中国が主導権を握るという目的だけではない。近い将来の働き手不足を補うためでもある。人口動態の視点からも、中国が今、迫られている課題、漢字4文字で表す「未富先老」。つまり「豊かになる前に、先に国が老いてしまう」事態に対応するため、そんな国家戦略も見えてくる。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。