健全な発展のために自覚的になるべき問題
このことに関して、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が朝日新聞デジタルで興味深いコメントをしているので引用します。
市原さんはアメリカで大学院生活を送っていましたが、そのときにある著名な研究者から「ある研究成果に問題があると思ってもそれを指摘しないのは、学術的な腐敗である」と言われたことがあるそうです。
有名な研究者でも、親しい研究者でも、自分の面倒を見ている研究者であっても、その人たちの研究をきちんと批判的に分析しなければ、学術分野全体が正しく発展できないという指摘です。
市原さんも同調圧力という言葉を使ってコメントしています。「同調圧力」という言葉は、同調せよという周囲からの圧力に屈する、自分は犠牲者だと位置付けるような、弱い者の立場で使いがちですが、同調することを当然視する一人一人が、同調圧力を形成している加害者側でもあるということに自覚的になる必要があると述べています。
特に日本人の国民性を考えると、あらゆる分野での健全な発展を考えたときに、このことに対して自覚的になるべきではないか、という提案をしていて、僕も本当その通りだなと思います。もちろん、自戒も込めて。
社会を健全な方向に持って行かないと被害者が報われない
ジャニーズ性加害問題については「まだそんなことを言っている人がいるんだ」と軽く考えている人から「もうあの一件からテレビは見なくなった」という人まで、反応のグラデーションがあると思います。
我々が学ぶべきことのひとつは、この問題で露呈してしまった、日本社会における「長いものに巻かれる」という悪習の根強さでしょう。「これを奇貨として」という言葉がありますが、その悪習を改めるためには、みんなで社会を健全な方向に持っていくという強い意思を持つしかありません。
そうすることでしか被害者は報われないと思います。これから数年後に「結局また似たような事件が起きた」なんて言いたくないじゃありませんか。
僕自身、自分の(音楽プロデューサーという)生業について、これほど考えさせられる1年間はありませんでした。僕を取り巻く状況もいろいろ変わりました。今この時点でも、メディアで発言すると「リスクがある」と心配されることが多いというのが実情です。でも、言うことがタブーになるなんておかしいと僕は思うんです。