■ “手取り額”は下がるが 将来の保障は厚く

【平】確かに手取り額だけを見るとそうなります。しかし、大切なのはデメリットだけではないということです。
社会保険に加入することで “健康保険” の保障が充実しますし、将来受け取れる “年金額” も増えることになります。


国の狙いはまさにそこで、これまで社会保険加入の一つのハードルとなっていた『勤め先の従業員数』という条件を大幅に拡大することで『より多くの人が将来安定した生活を送れるようにすること』が、今回の制度改正の目的といえます。


なお『106万円の壁』の対象となる勤め先の従業員数は、2年後には “51人以上” と、更に拡大されることが既に決まっています。

【住】“現在” と “将来” どちらに重きを置くか── まさにそれぞれのご家庭や個人の考え方によって『106万円の壁』の捉え方は変わってくるということですね。

■ 企業負担の増大 懸念 “社会保険料の折半” と “人出不足”

【平】ただ、そうも言っていられないのが、パートやアルバイトを雇う側の企業です。今回の制度改正で懸念されることが二点ありまして──

▽ 一点目は『社会保険加入者の増加による負担増』です。
厚生年金などの “社会保険料” は『従業員と雇用主が50%ずつ負担』することになっていますので、社会保険に加入する従業員が増えれば増えるほど、企業負担も増します。

▽ 二点目は、年収を調整する従業員が増えることによる『人手不足』です。

今後「年収が106万円を超えると手取りが減るから」ということで、これまでより“労働時間を減らす従業員”が出てくることが想定されます。
そしてこれに拍車をかけかねないのが『最低賃金のアップ』です。

長崎県の最低賃金は今月8日以降、これまでの時給821円から32円引き上げられ、853円となります。
時給が上がるのは働く側にとっては嬉しいことなんですが、裏を返すと『これまでより少ない労働時間で “年収の壁” に到達してしまう』ことも考えられるんです。

この二点は、今回制度改正の対象となった企業や、二年後に対象となる企業にとって悩ましい問題だと思います。


【住】働く側は手取りが減る。企業側も社会保険料の負担が増えたり、人材不足になったりという問題が出てくるかもしれないということで、“106万円の壁” の拡大はメリットよりもデメリットの方が多いような気もするんですが…

【平】しかし『これまで社会保険に加入したくてもできなかった人』が、“加入できるようになった”とも言えます。正社員とパート・アルバイトの垣根が少し低くなったということは、意味のあるじゃないかと思います。