なぜ学ぶのか?なぜ学ぶことができなかったのか?

校舎の前の二宮金次郎像

 札幌の繁華街、すすきのにネオンが灯る頃、その学舎(まなびや)に人々が通学して来ます。
 札幌市立星友館中学校は、すすきのに隣接する一角に、去年4月開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。
 高齢者、不登校経験者、外国出身者…通うべき時期に中学校へ行くことができなかった人たちが在籍しています。
 10代から80代までの多様な老若男女が、中には過酷な体験をした人が、夜の帳(とばり)の降りた校舎に机を並べています。
 なぜ学ぶのでしょうか?なぜ学ぶことができなかったのでしょうか?何を求めて集うのでしょうか?星空の下、学び直しをする人々のそれぞれの事情と姿をお伝えします。
 エピソード(10)は、それでも通学する・その(2)~車椅子の60歳男性の場合です。


くるくる回るのは、他人のため…

学校の内玄関

 11月初旬の雨の日、学校の内玄関で、車椅子に乗って、くるくる回っている男性がいました。

(私)「どうしましたか?」
(男性)「あっ、雨で濡れたタイヤを乾かしているんです」

 吉野太志さんは、星友館中学校の2年生です。60歳です。子どものころから脳性まひの障害があり、6歳から旭川市内の病院で、長期の入院生活を送りました。以来、車椅子が吉野さんの足となっています。

 タイヤを乾かしていたのは、濡れたままの車椅子で校内を歩くと、床が濡れ、ほかの生徒や先生らが滑って転んでしまうのを防ぐためでした。