「憐憫(れんびん)の情すら感じさせない残酷な犯行」懲役20年を求刑

廷内スケッチ(1月29日の初公判)

検察側は論告で、「被害者が別の男性と外泊したことや、復縁を拒まれたことへの怒りから殺意を抱いた経緯は、通常心理として了解できる」「犯行後の通報や取り調べでも、自らの行動の意味などを理解し説明できている」として、事件当時の山本被告に刑事責任能力があったのは明白だと主張。

「動機は自己中心的で身勝手」「瀕死の状態で周りに助けを求める被害者に対し、馬乗りになり胸部を刺すという、憐憫(れんびん)の情すら感じさせない残酷な犯行」と糾弾し、懲役20年を求刑した。

一方で弁護側は最終弁論で、裁判所が選任した医師による精神鑑定の結果に基づき、「被告は事件当時、『非定型精神病』の圧倒的影響下にあった。刑事責任能力は認められない」「錯乱状態で殺意もなかった」として、改めて無罪を主張した。

この鑑定結果をめぐっては、別の精神科医が真逆の見解を表明。「当時、精神障害はなく、“自己中心的な嫉妬殺人”だったのが実態だ」とする意見書を提出している。

山本巧次郎被告の最終陳述は、次の通りだった。

裁判長「最後に言っておきたいことがあれば、述べてください」
被告 「本当に取り返しのつかない大きなことをしたと思っています。本当に申し訳ございませんでした」

判決は2月13日、大阪地裁堺支部で言い渡される。

追記)求刑通り懲役20年の判決 「必死に生きようと助けを求めながら執拗に刺された絶望は想像絶する」被告側は控訴

2月13日の判決で大阪地裁堺支部(荒木未佳裁判長)は、精神鑑定について「鑑定人の能力や公正さには何ら問題がないと認められる」としつつも、「犯行前後の被告に奇異・不合理な言動はなく、目的に沿った行動を取っている点などと照らし合わせると、相反の程度が大きい」として、鑑定結果は採用できないと判断。「被告には事件当時、精神障害はなく完全責任能力があった」と断定した。

そのうえで「重傷を負った被害者を見て、悔い改めて思い直すどころか、かえって殺害を決意し、何の抵抗もできない被害者の胸部を躊躇なく包丁で刺した。犯行態様が極めて悪質」「最後まで必死に生きようと助けを求めながら、執拗に刺された被害者の絶望は想像を絶する」と指弾し、検察側の求刑通り、山本被告に懲役20年を言い渡した。

判決宣告の間、山本被告はまっすぐ裁判長を見つめ、時折うなずくように首を小さく縦に振っていた。

被害女性への弔意を示すためか、黒いスーツに黒いネクタイを着用して判決宣告に臨んでいた裁判員もいた。

そして2月20日、判決を不服として、山本被告の弁護人が大阪高裁に控訴した。

(MBS大阪司法担当 松本陸)