樺沢はペース次第で1時間8分台も視野に

もう1人の注目選手、樺沢和佳奈はパリ五輪5000m代表を目指している。昨年9月の全日本実業団陸上5000mで日本人1位、12月には15分18秒76まで自己記録を伸ばした。

樺沢は1500mで国体少年B(中学3年と高校1年のカテゴリー)と関東インカレ優勝経験がある。中距離から距離を伸ばしているのは確かだが、長い距離も走ることができるタイプ。

昨年の夏合宿から「20kmや30kmは普通に走ってきた」(三井住友海上・鈴木尚人監督)という。それでもスピードが鈍ることはなく、9月の全日本実業団陸上は1500mで4分11秒53と、23年シーズン日本9位のタイムで日本人2位と好走した。11月のクイーンズ駅伝1区(7.0km)は区間3位と健闘し、12月の10000mは31分45秒19と大幅な自己新で走った。

「年末年始、持久的なトレーニングを積んでいて、現在どのくらいスピード持久力があるのかを見るためのレースです」と鈴木監督。酒井と同様、樺沢が自身で集団を引っ張ることは考えていない。「先頭集団の流れで走ってラストで勝負できればいい」。

だが鈴木監督は「希望」と前置きして「ペースと天候次第なのでこだわってはいませんが、1時間8分台を出せれば」と話した。大会記録は2年前に、昨年の世界陸上ブダペスト10000m代表だった五島莉乃(26、資生堂)が出した1時間08分03秒。1時間8分台後半でも、日本歴代20位以内に入る好タイムである。

樺沢はスピード持久力が上がれば、トラックのタイムも上がる。今大会の結果次第でパリ五輪が視界にはっきりとらえられる。

飛田にハーフのスペシャリストの期待

ロードで実績を積んできた選手たちも負けていられない。その代表格が、1時間10分10秒と資格記録トップの飛田凜香だろう。

昨年1月の大阪ハーフマラソンは立命大の学生だったが、前述の記録で実業団選手たちを抑えて優勝。12月の10000mでは34分26秒70と良くなかったが、11月のクイーンズ駅伝は5区区間9位、1月の全国都道府県対抗女子駅伝も1区区間13位と、ロードでは強さを発揮している。

第一生命グループの山下佐知子監督は「トラックに苦手意識を持ってしまっていますが、トラックにとらわれずロード種目で頑張ってほしい選手。練習でも強いな、と思わせてくれることが多々あります。マラソンまではまだ具体的に話していませんが、年間で何度もハーフを走って、もっともっと得意種目にしてほしい」と期待する。

MGC優勝でパリ五輪代表を決めた鈴木優花(24、第一生命グループ)のMGC前の米国での高地合宿に、自ら志願して練習パートナーをつとめた。やる気も十分に感じられる。超高速レースになったら難しいが、1時間10分前後のペースなら飛田がイニシアチブをとる可能性は高い。

飛田以外では前回6位の唐沢ゆり、同7位の福良郁美(26、大塚製薬)、資格記録3番目の西谷らがハーフマラソンで実績を持つ。大塚製薬勢では西谷が好調で、来年のマラソン進出を視野に先頭集団で勝負を挑む。第一生命グループでは、21年の今大会2位の原田紋里(25、第一生命グループ)も復調してきた。代表経験選手こそ出場しないが、スピード型の選手、駅伝に強い選手、そしてロード型で力を発揮してきた選手と、多彩な女子ランナーたちの争いに注目したい。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)