新たな歴史
2022年7月15日小牧市民球場、6回のウラ2アウトから打席に立った選手が三振に終わりました。
6回コールドで試合は決しましたが、愛知県の高校野球の歴史に新たな1ページが加わりました。
知的障害のある生徒らが通う、特別支援学校の野球部員が公式戦出場を果たしたのです。
林君は生後まもなく知的障害が見られました。
幼稚園の時の工作でも、他の子たちに遅れてしまい最後までできなかったことがあったそうです。
中学までは障害のない生徒と同じ学校に通っていましたが、高校からは豊川特別支援学校に進学しました。
野球が大好き!
小学校の頃から地元・中日ドラゴンズの大ファン!選手名鑑などは夢中になって丸暗記していました。
しかしプレーはというと、障害を理由にチームに入ることは諦めて、お父さんとキャッチボールをしたりバッティングセンターに通ったりして、汗を流していました。
甲子園夢プロジェクト
そんな林君に転機が訪れたのが2021年の3月。
知的障害のある生徒にも、地方大会出場の機会を作ろうと「甲子園夢プロジェクト」が立ち上がり、最初の練習会から参加しました。
主宰する都立青鳥特別支援学校の久保田浩司教諭は、「硬球だと危険ではないかという理由で、特別支援学校に野球部を作る機運が生まれない。でも、知的障害のある子もルールは分かるし、危険だと教えれば対応できる。何より、好きな事が出来る可能性を奪ってはいけない」と言います。
五校連合チームの誕生
「野球部を作って下さい!」
林君の熱意に押された豊川特別支援学校の先生たち。たった一人の野球部が生まれ、愛知県高野連への加盟が認められました。
高野連は同じ三河地区にある四校連合に声を掛け「五校連合」となりました。ついに林君の公式戦出場への道が開けたのです。
バラバラなユニフォームの18人は毎週練習を重ね、一つのチームになっていきました。
他の四校も部員が足りず、「自分達だけでは出られなかった」という点では林君と同じでした。彼らは障害を乗り越えていく林君を「チームメイト」として受け入れていきました。
次の夢へ
公式戦出場を果たした林君の次の夢は「これからも僕のように障害のある選手が、公式戦の打席に立つこと」です。決して簡単な事ではありません。
しかし三振しても自信をつけて、会うたびに逞しくなっていく林君を見ると、ダメだと諦めてしまうのは勿体ない気がしました。周囲の人たちが手を差し伸べて共生していく社会の在り方を、林君から教えてもらいました。