2020年にイチロー氏(50)が初めての高校野球指導を行った智辯和歌山高校(和歌山)を卒業した大仲勝海(20、周南公立大学)は、イチロー氏の「厳しい道を選べる人間になりなさい」という言葉を胸に“いばらの道”を進んでいる。

イチロー氏の指導を受けた智辯和歌山は翌年夏の甲子園に出場し、21年ぶり3度目の制覇。大仲は、夏の甲子園で最多タイ1大会10安打をマークし、勝利に大きく貢献した。「間違いなくイチローさんが来てくれたおかげだと僕は思っています、イチローさんに出会えたおかげで更に成長できた」と当時を振り返る。

しかし、卒業後は強豪大学から声がかかるも断り、野球ではほぼ無名の周南公立大学(山口)へ一般受験で入学。野球部に所属している。「みんなでボロボロになったのをテープで巻いてまた使うという感じです、部員も少ないので、部費も集まらないのが大きい」と話すように、練習環境も恵まれているとはいえない。

“いばらの道”を選んだ理由を大仲は「楽な道としんどい道のどちらか一つに絞らないといけないとき『厳しい道を選べる人間になりなさい』っていうイチローさんの言葉を思い出してここに決めました」と語る。「人間ってどうしても楽をしてしまう。(イチロー氏の)『ずっと見ているから』っていう言葉を毎回思い出して、厳しい道を選ぶようにしています」。厳しい環境に身を置く方が自分自身が成長できると考えた末の決断だった。

大仲勝海選手

2023年秋季リーグ戦(9月2日~10月15日)では、中国六大学でベストナインを獲得するなど、進学後も“ちゃんと”野球に向き合っている。「やっぱりこの地方から全国に出てスカウトの方に見てもらえるような選手になりたいと思っている。イチローさんのようなすごい選手になれるように自分も頑張りたいので、ここに来てよかったです」と話す。

イチロー氏は、大仲の選択を「そこで思い出してくれてるだけでもめちゃくちゃ嬉しい。ただ結果として出して欲しい。だってその先によるわけじゃない?未来の自分が決めることだから」と喜ぶ一方、「今の自分は難しい、厳しい決断、道だと選んだけどそれはあくまでも結果を出すためのものであって、その結果が出なかったら後悔してしまうこともある」と語る。

イチロー氏

「だけどその時に厳しい道を選んだ事実が感触としてあればどんな道に進んだとしてもそれは活きると思いますけどね、もちろん」

大仲はこれからも“いばらの道”を進み続ける。