「新婚生活の始まりは、修業の始まりでした」笑いながらこう話す塩職人の夫婦が、高知県安田町にいます。2人の前職は、公務員。「安定」を捨て、この世界に飛び込んだきっかけは『釘のピアス』がトレードマークの、師匠の存在でした。

テレビで見た、世界が認める“カリスマ塩職人”

高知県東部・安田町の海岸近くに建つ真新しい製塩所。柔らかな光が降り注ぐハウスで、ただひたすらに、黙々と“塩”と向き合うのは、小坂英晃さん(43)、千里さん(33)夫婦です。2人は、塩職人を目指して、2020年3月に埼玉県から移住してきました。

英晃さんの前職は、市役所の職員。安定した職を捨て、新たな道に飛び込んだのです。

▼英晃さん「いつか自分の腕一本で勝負できる仕事がしたいと思っていました。その時に備えて資金を貯めていたこともあったので、公務員を辞めることに不安はありませんでした。」

転職のきっかけは、ある日、テレビで目にした元サーファーの塩職人、田野屋塩二郎さんでした。トレードマークの「釘のピアス」をつけた風変りな見た目とは裏腹に、その技術は世界一と評される塩二郎さん。

英晃さんは、塩二郎さんの高い志と自分流を貫く姿に、「公務員の自分とは真逆の生き方。自分が求めていた道はこれだ」と、弟子入りを決意しました。30代最後の年の一大決心でした。

▼英晃さん「塩二郎さんの作る完全天日塩に衝撃を受け、塩の可能性を感じ、『ここでやらなければ一生後悔する』という不安のほうが大きかったです。父親は1つの会社で勤めあげたこともあり、公務員を辞めることに対して当然反対されましたが、塩の魅力と可能性を伝えて、半年ほどかけて説得しました。」

一方の千里さんも、英晃さんと同じ職場に勤めていました。塩職人への道に飛び込む英晃さんと共に、退職。2人は結婚し、塩二郎さんの元にやってきました。