イチ流のバッティング理論「体が前にいくのは全然構わない」
イチロー氏がペッパー(バッターと投げる側が7〜8mの距離をあけ、打球を正面に打つ練習)を始めると、部員たちが周りを取り囲む。すると早速、“イチ流”のアドバイスが。

イチロー氏:
これ、手でやってるように見えるけど、コントロールしてるのは足だから。どうしても手を使いがちだけど、ペッパーは手でコントロールすると変な動きになっちゃう。知らない内に変なクセがついちゃうリスクが大きい。どんな練習もそうだけど、正しい形でやるから実になるわけで。間違った形でやってたら悪い方向に進んじゃうから。悪い形はすぐ身についてしまうんで。バントも似てるかな。バントも手でやろうとする人は、安定してバントできない。高校野球でもよく見るけど手でバントする。バントも足を使う。足でコントロールする。ボールがバットに勝手に当たってくれるイメージ。
そしてバッティング練習が始まると、川満悠雅(2年)キャプテンがイチローのもとにやってきた。
川満選手:
打つ時、どうしても体が前に突っ込んでしまって、ボールに合わなくなることが多いんですけど・・・
イチロー氏:
体が前にいくのは全然構わない。前にいってほしいくらい。体重移動はしてほしい。問題は顔も一緒に前にいっちゃうこと。顔は、右バッターだったら、右足の上にある状態がいい。打つ時に顔も前にいってしまうと難しくなるっていうか、振らされたり、振れなかったり、それは意識してほしい所だね。打球を見たいのは分かるけど、顔を残す練習が有効だと思う。体は前にいっていいんだけど、顔は残す。体重移動はしてほしいから全然問題ない。顔の位置を意識して練習してほしい。
川満選手:はい!
イチローの代名詞でもある“振り子打法”の原点を語った。さらに1年生の佐渡山大響選手(右打者)も駆け寄ってきた。
佐渡山選手:
自分、直球を打つのが苦手で、詰まったりするんですけど、すり足でやってみたり工夫してるんですけど、きれいに捉えきれてないので、直球に対応できる工夫はありますか?
イチロー氏:1回打ってる所見せて。
自らバッティングピッチャーを買って出たイチロー氏。10球程ウォーミングアップした後、佐渡山選手に投げ込んでいく。
イチロー:もっと体が前にいっていいと思う。受けてる感じだから、もっとはやく準備してほしい。
イチロー 448球の熱投 球児に魂の指導
イチロー:
前に移動していくのに、すり足が邪魔してる気がする。左足を上げるくらいで極端に前に行くくらいの方がいいと思う。1回、足を少し上げてやってみたら。怖いからすり足で安全にいこうとしてるんだけど、それで思いきりいけないというか。思い切った動きができない。対応できない怖さを感じる。だから思いきっていっていいと思う。
イチロー氏のアドバイスに従い、左足を上げて打つ佐渡山選手。

イチロー氏:ずいぶんいいよ。感触どう?自分で打って。
佐渡山選手:足を上げる方が思いっきりいけます。
イチロー氏:
ゆるい球で形を作るのも大事なんだけど、ゲームでそういう球は来ないから、かといって150キロのマシンで打つのも僕は好きじゃない。ゆるい球はどんな形でも打ててしまうので、それこそすり足でも。タイミングが合ってなくたって打てるから、ある程度の速さの球を打つことが大事。それで形を作っていくのが大事。
「僕がやるんで打ってみて」。イチロー氏は他の部員たちに対してもバッティングピッチャーを務めた。50歳のイチロー氏が黙々と投げ続け、質問にも身振り手振りを交えて丁寧にアドバイスをおくった。
バッティングピッチャーとして投げ、質問を受け、アドバイスをし、もう一度投げる。この一連を繰り返すイチロー氏。約1時間20分休むことなく、球数は448球。イチロー氏は本気で宮古高野球部員たちと向き合い続けた。
練習終了後、「ありがとうございました」と挨拶した部員たちにイチローは「バラバラ!」と一喝。「そこはもっとカッコよくやってよ!」、イチロー氏の声に、今度は大きな声を揃えて「ありがとうございました!」と挨拶し、1日目が終わった。
2日目は、女子マネージャーの直撃質問から始まった。

女子マネ-ジャー:練習中の補食はどうしてましたか?
イチロー氏:
ゲーム前にうどんを食べるとかはあったけど、練習中や試合中に何かを食べることはないね。ホント、水分くらい。
女子マネ:食事で気をつけてることは?
イチロー氏:
延長に備えて、お腹減らないように、試合前にうどんとかを食べる。遠征に行くと、ひどい時はチーズバーガー4つ。それしてたらお腹減らないよ。ホームの時はおにぎり持っていったり。僕はきょうで居なくなるから、マネージャーから見て彼らがどう変わるかが大事。客観的にマネージャーがしっかり見てあげることが大事だよ。
