今年初めてバレーボール日本代表に選出された荒木彩花(22・久光スプリングス)。ネーションズリーグ(VNL)で鮮烈デビューを果たし、”期待の大型ミドル”として注目を集めたが、突然の怪我により無念の代表離脱。荒木が”人生で1番苦しかった怪我”を乗り越え再びバレーに向き合うまでの葛藤、日本を背負って戦う覚悟、来年の代表復帰へかける思いを語った後編。

■「バレーボールに向き合いたくない」どん底の荒木を救った”1本の電話”

7月のVNLで怪我をした荒木は「正直、本当にタイミングが悪かったのもあって、正直バレーボールと向き合うことがリハビリ期間は特に一番しんどくて…」ハキハキとインタビューに答えていた彼女が言葉を詰まらせ、目からは大粒の涙がこぼれていた。

「OQT(五輪予選)も諦めざるを得ない時期の怪我ではあったので…。目標としてきた場面を捨てる覚悟もできないし、だからといって自分が今真剣に本当にバレーボールに向き合えるかって言われても、正直向き合えないというか…。バレーボールに関する話を聞きたくないぐらい一番あの時期が落ちてました」とふり返った。

目標を失った荒木はリハビリも前向きに受けることができず、親、チームメイト、スタッフなど、一切誰とも連絡を取ることができなかったという。

”大好きなバレーボールと向き合いたくない”時折言葉を詰まらせ、涙を流しながら当時のことを語る姿は、今回の怪我が彼女に与えた影響の大きさを物語っていた。
そんなどん底の淵にいた彼女が”もう一度バレーボールと向き合おう”と思えたきっかけ、それはある”1本の電話”。彼女は止まらない涙を手で拭いながら当時のことを語ってくれた。

「日本代表ストレングストレーナーの油谷さんからの電話に1度だけ出たときに、正直バレーボールと向き合うのがしんどいですって言うことを伝えたんです。そしたら油谷さんが『諦めたらいかんぞ』って、自分を鼓舞するために叱ってくれて。『諦めるのは簡単だけど、でもその後しんどいのは自分ってことを分かっておかないかんぞ』っていう言葉をいただいて少し考え直せたというか」。

バレーボールと向き合えない所まで落ちていた彼女に響いた言葉、それは「諦めるな」という一見シンプルなもの。「その言葉がなかったら、自分が最悪な選択をしてたかもなっていうのは今も思っていて、油谷さんの『諦めたらいかん』っていう言葉に一番救われたかなと思います」。選手のフィジカル面強化を担当する油谷浩之さん(58)の一言は荒木にとって見失いかけていたものを思い出させてくれる大切な、強い言葉だった。

その言葉のおかげで今、彼女はバレーボールと向き合うことができている。チームメイトと、まるで子どものような無邪気な笑顔でバレーボールを楽しんでいる。「自分からバレーボールを取ったら、多分何も残らないなっていうぐらいやっぱりバレーが好きっていう実感はありますね」。荒木がバレーボールを心から好きなんだということが痛いほど伝わってきた。