母親は、娘の遺体に頬ずりして子守唄を歌った
――この日、最後に意見を述べたのは、入社1年目で犠牲となった兼尾結実さんの母親だった。

あの日、事件のことを知り、結実が好きな庭のミニトマトをちぎってタッパーに入れて、保冷材で冷やしながら京都に向かったのは、まさかこんなことになるとは思っておらず、「結実が火事で怖い思いをして、ご飯を食べられなくなっているかもしれない。トマトなら食べられるかもしれない」と思ったからです。でも、トマトを結実に食べてもらえることはありませんでした。
1階のフロアで、結実がいた場所を聞くと犯人のすぐ近くにいたのだと思いました。警察の方から結実の足が欠損していて一部がないと聞いたとき、逃げられなかった状況が思い浮かびました。結実の遺品として受け取った腕時計は、結実のことをかわいがってくれていた弓道部の先輩から、京アニへの就職祝いでもらったものです。時計は、10時40分で止まっていました。
DNA鑑定の結果の連絡をもらったのは遅い時間だったので、結実に会うのは翌日になる予定でしたが、私が「どうしても、一刻も早く会いに行きたい」というと、結実が安置されている場所へ案内もらえ、ようやく会うことができました。私は結実を抱きしめて、「熱かったね。よく頑張ったね。助けてあげられなくてごめんね。代わりたい、代わりたい」とたくさん泣きました。
翌日、刑事さんから「遺体は見ないほうがいい」と言われましたが、私はどんな姿でも、結実の最後の姿を見届けると決めていましたので、遺体を引き取って、部屋に寝かせ、二人きりになった時に顔を見ました。会いたくて仕方なかった、かわいい結実がいました。
顔や口の端に、わずかに肌色が残っていて、口から見えた前歯の形で結実だとわかりました。「熱かったね」などと、色々話しました。結実に頬ずりをして、ほっぺにキスをしました。結実が生きていたら、「もう子供じゃないんだから」と嫌がったと思いますが、この時は許してくれたと思います。
そこで私は子守唄を歌いました。小さかった時、いつも寝かしつけるときに歌っていた子守歌です。息子の名前は伏せますが、子供のために私が作った歌です。
♪~ちいちゃくって、かわいくって、あたたかくって~
こんなたからもの ほかにいない、かわいい子どもたち~
結実ちゃんと、〇くんと、〇くん お母さんのたからもの~
大事なたからもの~
――子守唄が法廷に響き渡る。それを聞いてすすり泣く声が複数聞こえる。結実さんの母親は涙をこらえるようにして意見陳述を続けた。














