「では、大使を呼びますのでお待ち下さい」

ビデオ通話越しに秘書の女性は言った。

政府の要職にあった人は、退任後も敬意を込めて、その職位で呼ばれ続ける事が多い。

ジョン・ボルトン氏が最後に就いていたのはトランプ政権時代の国家安全保障担当大統領補佐官だが、ブッシュ政権時代の国連大使の「大使」と呼ばれるのを、好んでいるのだろうか。

そんな外交・安全保障の要職を歴任したボルトン「大使」に、国際情勢について意見を聞いた。

「北朝鮮は冷戦期のゲームに復帰した」

北朝鮮の金正恩総書記は9月、ロシア極東を訪れプーチン大統領と首脳会談した。ウクライナ侵攻を続けるロシアへの武器供与について話し合われたとみられているが、これについて「金正恩氏にとって大きな勝利だ」とボルトン氏は断言する。

「冷戦期、北朝鮮は、ソ連と中国の間を行き来して争わせ、より多くの支援を引き出してきた。しかし、ソ連が崩壊して、モスクワの指導部の北朝鮮に対する興味は劇的に薄くなった。冷戦の秩序が壊れ、ロシアは自国の課題に集中する必要があったからだ。ソ連崩壊後、北朝鮮はより中国に依存し始めた。今回、ロシアが北朝鮮に砲弾などの軍事支援を求めたことで、北朝鮮は冷戦期に戯れていたのと同じゲームに復帰したとみて良いだろう」

ボルトン氏はさらに、事態は冷戦への回帰だけでなくロシア、中国、北朝鮮などによる「新たな枢軸の形成」へとステージを進めたと分析する。

「ロシアと中国は枢軸の中で接近した。北朝鮮、イラン、ベラルーシ、シリアなどを含む新たな枢軸の中において。中国やロシアが直接的に、あるいは北朝鮮などを介してもたらす脅威はグローバルなものになっている。ウクライナで戦争をしているのは、ロシア一国ではなく、中国や北朝鮮の支援があることを考慮しなければならないし、東アジアや南アジアにおける中国の脅威は、中国だけがもたらしているものではない。日本がロシアと中国、北朝鮮と同じ地域にあることは言うまでもない。岸田総理が今年8月、中国や北朝鮮への対応を念頭に日米韓で軍事的な協力の強化に合意したことの重要性が際立つ」

ロシアのウクライナ侵攻-「クリミア併合時の対応が不十分だった」

ボルトン氏は、トランプ前大統領の国家安全保障担当大統領補佐官を務めた。2019年、トランプ氏はウクライナに対し、軍事支援などと引き替えに、当時大統領候補だったバイデン氏にまつわる汚職疑惑を調査するよう圧力をかけたとして、弾劾訴追されている。いわゆる「ウクライナ疑惑」だ。

「ウクライナ疑惑」では、ウクライナへの軍事支援が留保されたと言われている。政権に身を置いていた立場として、ボルトン氏はロシアによる侵攻をどう捉えているのだろうか。

ーーウクライナ侵攻は予期していたか。

「ウクライナの危機は、2014年にロシアがクリミアを一方的に併合して以降、明白だった。2014年の西側の対応は『今度も大きな国際社会の反発なく(ウクライナ全土の侵攻を)やり遂げられる』という自信をロシアに与えた」

ボルトン氏はロシアによるウクライナ侵攻はオバマ政権時代に起きたクリミア併合が起源だったと話した。さらに、こう付け加えた。

「もし、トランプ氏が2020年に再選していたら、プーチン大統領はまたとない好機と捉えただろう。トランプ氏は、NATO(北大西洋条約機構)からの脱退すら、ほのめかしていたのだから」

では、「ウクライナ疑惑」はウクライナ侵攻に具体的にどう影響したのだろうか。

「ウクライナにとっては不運だった。就任したばかりのゼレンスキー大統領はトランプ氏と関係性を築くことが妨げられ、多くの軍事支援を受けることが出来なかった。しかし、2022年の侵攻を防げなかった根本的な原因は、クリミア併合の時の対応が不十分だったからだと考えている」

中国外務省HPより