100歳を迎えたキッシンジャー氏の訪中 「今回の訪中は中国側の要請だったと考えている」
「20世紀の外交史における傑物の一人であることは間違いない」そうボルトン氏が評するのは、2023年5月に100歳を迎えたヘンリー・キッシンジャー元国務長官だ。20年来の交流があり、ボルトン氏が補佐官在任中はホワイトハウスに招いて国際情勢について意見を交わすこともあったという。
キッシンジャー氏は7月、北京を訪問し、習近平国家主席や外交トップ兼外相の王毅政治局員などと相次いで面会している。キッシンジャー氏は、ニクソン政権時に米中国交正常化の道筋を付けた「立役者」だ。
100歳にして訪中した背景は何だったのだろうか。ボルトン氏の分析を聞いた。
「今回の訪中に関しては、中国側の要請だったと考えている。100歳のお祝いや、米中関係における彼の功績をたたえたいという思惑があったのだろう」
「キッシンジャー氏は、アメリカの政策を劇的に変化させた歴史的な舞台を再訪する最後の機会と捉えたかもしれない。自ら実現した冷戦の雪解けをいくら懐古しようと、現状、中国はインド太平洋周辺で覇権を唱えようと試み、経済・通商分野において責任あるステークホルダーとしての振るまいをしていない。中国が影響力を拡大しようとする試みは台湾海峡の危機という形であらわれている」
そんな中国が、キッシンジャー氏を厚遇した理由について、ボルトン氏は「アメリカ政府に対して、自分たちの目的は無害なものだと説得してくれると期待しているのだろう」と指摘した。
ーーキッシンジャー氏は何らかのメッセージを伝えに行ったのか。
「キッシンジャー氏はこれまで、何度となく中国を訪れ習主席やその前任者らとも面会を重ねてきた。中国を訪れる時の慣習として、キッシンジャー氏はいつも国務省かホワイトハウスに知らせていた。アメリカ政府としてキッシンジャー氏の訪中に反対意見があれば耳を傾けたし、伝えて欲しいことがあればキッシンジャー氏は喜んで伝言した。だから今回の訪中でもそうした可能性はあるが、いまのところその答えが習指導部から返ってきたという話は聞いていない」
ーー習氏はG20=主要20か国首脳会議を欠席し、米中首脳会談が先送りされている状況だが。
「習氏が11月のAPEC(アジア太平洋協力会議)で訪米するかどうかは、今後の米中関係を分析する上で重要な試金石となる。習氏は内政に集中したいのかもしれない。中国の経済は深刻な問題を抱えている。発表されている統計よりも状況は悪いのではないかと思う。だから、7月のG20欠席に関しては国を離れるには良いタイミングではないと判断したのだろう」
インタビューを収録した9月末以降、米中の政府は11月15日にサンフランシスコで首脳会談を開くと発表した。キッシンジャー氏が米中関係を一変させた当時のニクソン大統領訪中から52年が経とうとするなか、約1年ぶりの米中首脳会談に世界が注目している。














