中尾さんが「福祉ネイリスト」を目指したきっかけは、18歳まで一緒に暮らした祖父が認知症を患ったことでした。
当時、大阪で医療機器メーカーの営業マンをしていた中尾さん。祖父の介護は広島の母親に任せっきりでした。結局、介護に関わることなく、祖父は亡くなりました。

中尾さん
「家族に触れることの気恥ずかしさみたいなものがあって。結局、じいちゃんが亡くなるまでぼくは1回も介護に関わることができなくて。じいちゃんに対しても、母親の負担を減らすという意味でも何かしらサポートが…。ただその頃、知識もなかったので、何をどうしていいかも分からなかったのですが」

自分に何ができたのか―。祖父が亡くなったあと、「福祉ネイル」の存在を知りました。高齢者や介護者の力になりたいと会社を退職。4年前に資格を取りました。
訪れたのは、なじみの高齢者施設。月に2回の「福祉ネイル」の訪問日です。
中尾さん
「磯部さん、こんにちは」
一番乗りは96歳の磯部さん。ツメのケアをしながら中尾さんは、目と目を合わせて穏やかに語りかけます。

中尾さん
「磯部さん、お孫さん広島の大学ですか?」
磯部カズエさん(96)
「孫が1人、息子が1人、嫁が1人、年寄りが1人」
中尾さんと会話をしていくうちに、昔の記憶が次々とよみがえります。
磯部さん
「うちら若い頃は広島の上をB29が舞いまくりよった。最後に原爆。哀れな青春」
中尾さん
「すごい似合ってますよ。すごい似合ってる」
磯部さん
「ほう? きれいになったよ~」
三浦さんは84歳。
三浦順子(としこ)さん(84)
「クリスマスが近いから明るい色にしてみたい」
中尾さん
「もうちょっと濃くするならこのへんかな。一番濃い色にしてみます?」
三浦さん
「ベッドに寝ている時間が長いでしょう。だから自分の手を見て、ツメの色が赤いと元気が出る。がんばらなきゃと」

ツメがきれいになることで、オシャレの想像もふくらみます。
三浦順子さん(84)
「ブレスレットして赤い玉を。それとネックレス」
中尾将吾さん
「いいですね、赤にあわせてね」
指先は自然と目に入る機会も多く、化粧と違って鏡がなくてもその美しさを何度も実感できるのが「福祉ネイル」のメリットです。しかも落ちにくく、効果が長持ちするため、コストパフォーマンスも良いといわれています。

97歳の深瀬さん。懐メロと思い出話が続きます。
深瀬テルヱさん(97)
「早よ主人が死んだ、3年前に。あの世で待つないうて写真にいつも言いよる。お父さん、待ちんさんなよ、わたしゃ、まだ行きゃせんでって」
― 若いころ、マニキュアしていた?
「やってない。あがなことは。おしろいも、えっとよう買わんかった」
施設側もお年寄りの変化を実感しています。
デイサービスセンターふじ段原 森田健一 施設長
「ネイルをすると自然と笑顔になったり会話も弾んだり、表情もいい表情で笑顔が増えるのは実感していますので、効果があるとわたし自身も思っています」

中尾さん
「高齢者が笑顔になってくれることが一番のやりがい。興味ない顔で来られる方もいるが、ネイルすることで笑顔になってくれたらやりがいをすごく感じますし、楽しいときですよね」