23日、富山市で高齢男性を襲ったクマは、体重が平均よりも20キロ以上軽く、胃の中は柿だらけだったといいます。山里でエサにありつけず、腹を空かせたクマが市街地に数多く出没。専門家はクマの行動範囲が”過去最悪レベル”とさらなる警戒を呼びかけています。
23日午後2時50分ごろ、富山市安養寺で72歳の男性が納屋に行ったところ、中にこもっていたクマと遭遇。数メートルの距離で鉢合わせ、男性は顔や左足などをひっかかれてしまい、全治1か月のけがを負いました。その後、クマはおよそ1時間半後に駆除されました。
一夜明け、警戒が続く現場周辺では人の姿がほとんど見られませんでした。
近所の人:「みなさんお家の中におられるから近所の方とも外でお会いすることはあまりないような気がしますね」
外に出なくなったことで近所の人との会話がなくなり、クマの情報が入ってこなくなったと言います。
近所の人:「クマが出たってきのうもまわっているんだけど、どの辺にどんな状況かは近くにいても本当にわからなくて、逆にインターネットを見て、よそにいる者が今そちらにクマが出たから気を付けてとかって言って教えてくれる(状況)」
また、外に出られないことでこんな問題も…。
近所の人:「本当は柿の実を取らないとだめなんだけどね、お隣さんも取る人がいないからあのままになってるんですよ」
クマと遭遇する恐れがあることから柿の実を取り除きたくても外に出られず、作業が進まないのです。また、クマへの警戒はこんなところにも...。
記者:「きのう男性がクマに襲われた現場から1キロほどの距離にある熊野小学校です。クマが駆除された後も、保護者が送り迎えをするなど厳戒態勢が続いています」
この小学校では、今月25日までとしていた保護者による送迎を31日まで延期。グラウンドも31日まで使用禁止の措置をとっています。
保護者:「時間帯もいつ出るかわからないし、朝晩だけ気を付けとっても今日中も出とるし」
「一頭駆除されたみたいですが、いつ出るかまた心配なので、これ以上いないことを願うばかりなんですけどなるべく早くこの状況が解決するように願っています」
男性を襲い駆除されたクマは推定4歳、体長およそ1.2メートルの成獣でしたが、体重は80キロほどしかありませんでした。

駆除されたクマを調査した専門家は、ある”異変”について指摘します。

富山県自然博物園ねいの里 赤座久明さん:「(駆除されたクマを)見た関係者は“本来ならば100kg超すようなサイズ感があるはず”と言っていた、今のまま冬眠するわけにはいかないような体つき」


駆除されたクマは皮下脂肪が少なく、平均体重よりも20kg以上軽かったといいます。ことしはエサとなるブナやミズナラが不作の年で、赤座さんは、お腹を空かせたクマがエサを求め、人里にまで下りてきているのではないかとみています。

富山県自然博物園ねいの里 赤座久明さん:「胃の内容物は柿だらけだった。質の悪い柿だが、大量に食べることでエネルギーを蓄えている」

さらに、ことしのクマのある特徴が”過去最悪レベル”だとも指摘します。
富山県自然博物園ねいの里 赤座久明さん:「クマの目撃地点の広がり、2019年(クマ出没:919頭)を超えて、2010年(出没:1387頭)の大量出没に近いような感じになってきている」
過去7年間のデータを確認すると、どの年もクマの出没は山の中やふもとですが、ことしは、富山市藤木周辺などといった「市街地」でも目撃が相次いでいるのです。


記者:「山のふもとから13キロ離れた富山市手屋でもクマの痕跡が見つかっています」
国道8号に近い、富山市手屋の住宅の柿の木に残るクマの爪痕。そばには、柿を大量に食べたとみられる糞が残されていました。


住民の男性:「びっくりしました、こんなところにまでクマが来るとはね。(クマは)全く今まで聞いていないからね、どういう風に対策すればいいか、想像もできない」

クマは常願寺川を伝って手屋の住宅のそばにまで下りてくるほど行動範囲が広がっているといいます。

県内では、ことしに入り今月24日までに、360件以上の出没情報が寄せられ、このうち7割が「市街地」などで確認。

県内で過去最多の出没となった2010年には、富山湾まで下りてきたクマが夜釣りをしていた男性を襲いましたが、ことしはこの2010年と行動範囲が似ているといい、”市街地での十分な警戒”を呼びかけています。

富山県自然博物園ねいの里 赤座久明さん:「普段、クマに全く縁がないと言っていても、今回のように人身被害が起きることにつながっているので、今からでも遅くないので柿の実の撤去と、必要がないなら伐採をして、数年後の大量出没に備える。クマの誘因物をなくしてほしい」


過去最悪の出没となった2010年は、10月と11月にクマの出没が相次いでいて、来月いっぱいまでは”県内全域で十分な警戒が必要”となっています。