ウクライナで戦争が続いている。遠く離れた場所にいる私たち日本人も報道される戦況、周辺状況には関心を寄せる。だが、明日は我が身と捉える日本人はどれほどいて、政治は国民にきちんと説明しているのか。防衛とは、安全保障とは…平和憲法の元で日本人が避けていいたこの議論。日本の安全保障にない“哲学”について議論した。

■「どの程度脅威にさらされているのかを国民が理解しているかどうか」


北朝鮮は今年26発の弾道ミサイルの発射している。これは過去最多だ。
台湾近海では中国の空母が300回を超えて活動している。
ロシアは主権を守るためなら核使用も辞さないことを公言している。
日本にとっては3国ともに隣国であり、もしも事あれば日本は3正面に備えなければならない。
「まずは日本が極めて厳しい状況にあるということをしっかりと国民に理解してもらうことだ」と語るのは、米テンプル大学のブラウン准教授だ。



テンプル大学 ジェームズ・ブラウン准教授
「日本は3つの正面で脅威に直面しており、台湾をめぐる危機も非常に憂慮されるもので、日本が軍事的に巻き込まれる可能性もある。だが多くの日本国民はそれを理解できていないのではないか。いちばん重要なのは日本がどの程度脅威にさらされているのかを国民が理解しているかどうかです。なぜなら国民の支持や理解がなければ防衛のために財源やリソースを割くことができないからです」

確かに日本国民の脅威への認知度は高くない。日本の政治家は防衛の必要性を正面から議論してこなかった。例えば、2017年に導入を決定した陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージスアショア』の顛末。海上イージス艦の負担軽減もあって、陸上にイージスシステムを配備し、敵のミサイルから本土を守る計画だったが、2020年にその計画は突如停止される。理由は「発射した迎撃ミサイルのブースターを確実に安全な場所に落下させられない」ということだった。
一方で、停止発表の3日後に当時の安倍総理は、これまで政府が否定してきた“敵基地攻撃能力”持つことについて議論する考えを示す。結局、宙に浮いたイージスシステムは、陸でなく船を建造してそこに載せることになり、建造費は2倍、海上自衛隊の負担も増えることになっている。



東京大学先端科学研究センター 小泉悠専任講師
「軍事的観点から言えばイージスアショアはあったほうがいいに決まっている。(中略)安全重視はやむを得ないかもしれないが、日本に向かって確実に弾道ミサイルが飛んできている時、核弾頭が落ちてくるリスクとブースターが落ちてくるリスクをどれくらいちゃんと比べられるのか。明らかに同じリスクではない。そういうことを政治の側がちゃんと説明すべきだった。ブースターが落ちてくる危険性はありますが、これがちゃんと抑止力になるんですっていう説明ができればよかったと、一国民として思います」

香田洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官
「防衛省の一連の手続きを見ると国民への説明は0点です。何ゆえに必要なのか…何千億、生涯の期間を考えると兆を超す資源投下をするわけですからこれについての説明は全くなってなくて、民主主義の軍事組織として体をなしていない。そして結果的に一番困るのは配備された部隊なんです」