アジア大会中国 杭州の25日に行われる柔道競技、2日目(男子73kg級、81kg級、女子57kg級、63kg級、70kg級)のみどころをお届けします。大会前に日本代表選手の位置づけや各階級の有力選手などは解説させて頂きましたので、その後に決まった「組み合わせ」を踏まえたお話をしたいと思います。
■男子73kg級
パリ五輪代表に内定している橋本壮市(24、パーク24)と2022年世界選手権金メダルのT.ツェンド オチル(27、モンゴル)の2強は、綺麗に山が分かれました。直接対決は決勝ということになります。どちらも世界王者経験者、この対決がもっとも注目される一番です。
橋本は変幻自在の組み手で相手を追い詰めることが売りですが、ツェンドオチルは橋本の圧力を比較的いなしやすい左組みで、かつ対応出来る戦型も多い。2022年世界選手権決勝では、橋本の組み際の右出足払に左小内刈が「かち合う」形でツェンドオチルに軍配が上がり、8月のワールドマスターズ2回戦では6分超えの長時間試合の末に橋本が「指導3」で勝利を収めています。今回もこのようなぎりぎりの接戦は間違いないと思われます。楽しみな一番です。
そして2人はともに準決勝に山場があり、気が抜けません。橋本はベテランのB.コジャゾダ(28、タジキスタン)と、ツェンド オチルは大会直前にエントリーしたM.ユルドシェフ(28、ウズベキスタン)と戦うことになると思われます。橋本は8月のワールドマスターズ決勝でコジャゾダを破っていますが、この時は相手の側に橋本最大の武器である組み手対策がほとんどありませんでした。今回はかなり考えてくるはずです。ユルドシェフは5月のドーハ世界選手権で銅メダルを獲得して上り調子、一方ツェンドチルは今年あまり元気がなく、実はあまり成績を残せておりません。ベスト4以降は目が離せない、という1日になりそうです。
■男子81kg級
日本期待の若手・老野祐平(22、帝京平成大)は、第4シードのN.タタラシビリ(33、アラブ首長国連邦)と初戦を戦います。強敵ですが、全体を考えれば決して悪い配置ではありません。
そして最大の山場は、第1シードのイ ジョンファン(21、韓国)と戦う準決勝。イは昨年の世界選手権の銅メダリスト、永瀬貴規にも2度勝利している今大会のV候補筆頭です。担ぎ技でリズムを作り、奇襲技も切れる。韓国男子は今大会の金メダルに兵役免除が掛かるはずで、モチベーションも極めて高いはず。まさに強敵です。決勝の相手には好調のS.マフマドベコフ(24、タジキスタン)が控えますが、この準決勝が金メダルに向けた最大のハードルとみて間違いないでしょう。
老野は若さ、そしてコロナ禍の影響もあって、国内での実績に比して国際大会の派遣がほとんどありませんでした。そしてその分、相手にも知られていない。これは大きなアドバンテージになるはずです。本格的な国際デビューとなるこの大会でいきなり主役に躍り出ることが出来るのか。イとの一番に「メジャーデビュー」が掛かります。
■女子57kg級
日本代表の玉置桃(29、三井住友海上)は優勝候補の筆頭。ただし組み合わせ上は第4シードに置かれ、準決勝で世界選手権2大会連続銅メダルのE.ルハグバトゴー(24、モンゴル)、決勝ではおそらく連珍羚(35、チャイニーズ・タイペイ)と、対抗馬2人をすべて破らねばならない配置となりました。ルハグバトゴーは担ぎ技系のパワーファイター、連は長い手足を生かした一発のある攻撃型。いずれも強敵です。
ただし実力でいえば玉置が抜けています。ミスなく、しっかり柔道を組み立てれば優勝はまず間違いなし。先に持ち、先に仕掛け、寝技で仕留める玉置らしい柔道に期待しましょう。
■女子63kg級
日本の髙市未来(29、コマツ)が頭1つ抜けた、絶対の金メダル候補。もちろん配置は第1シードです。内股や小外刈などの切れ味鋭い投げ技、そして巧みな組み手に安定感のある寝技。彼女の持ち味を存分に味わえる1日になるのではないかと思います。
力の差があるときの髙市は、実に手堅く、絶対に誤りがないように試合を組み立てます。この場合注目するポイントは、柔道選手が言うところの「立ちから寝」。相手の崩れ際や、投げ終わり際の「まだ立ち技」の段階から寝技の作りを開始して、相手が寝たときにはほぼ勝負をつけてしまっています。ぜひ注目してみてください。
当初エントリーしていたG.ボルド(27、モンゴル)がいなくなり、追いかける勢力の中で世界の舞台での実績がある選手は唐婧(28、中国)のみ。髙市の対戦順は初戦(準々決勝)が早稲田大卒の元学生王者・K.ワタナベ(27、フィリピン)、準決勝は返し技の得意なI.ムンフツェデフ(25、モンゴル)、決勝が唐、という形になると思われます。
■女子70kg級
田中志歩(25、JR東日本)と、G.マトニヤゾワ(29、ウズベキスタン)による決勝がハイライトです。
マトニヤゾワは背中を抱けば左釣腰、袖を絞れば左袖釣込腰と、腰技を軸に戦うパワーファイター。ウズベキスタン選手らしく技一発の威力が目立ちます。一方の田中はかつて押し出していた豪快な投げに加え、もっかは組み手と足技を使った試合の組み立てに進境著しい。理想はこの2つを組み合わせた「巧さで追い詰め、投げて仕留める」戦い。どんな試合をしてくれるか、注目しましょう。
ただし、田中の側には、準決勝で馮瑩瑩(23、中国)との対戦という山場があります。この選手、まだ大きな大会でのメダルはないのですが、世界大会のメダリストをたびたび破っており、ブレイク寸前という印象あり。状況に応じて組み手の左右を切り替え、得意の外巻込も左右に仕掛ける「両組み」の選手です。まず組み勝って「指導」を取る田中の今のスタイルに、この「両組み」は決して相性がよくありません。組み勝ったというところで左右をスイッチされ、アドバンテージをリセットされてしまう可能性があるのです。地元選手ということもあり、おそらく大歓声の追い風も受けることでしょう。田中が「巧さ」で封じるのか、「力」で投げ切るのか、決勝に向けて大きな伏線となる一番になると思われます。
(TEXT by 古田英毅)
【柔道日程】
24日 女子48kg級、女子52kg級、男子60kg級、男子66kg級
25日 女子57kg級、女子63kg級、女子70kg級、男子73kg級、男子81kg級
26日 女子78kg級、女子78kg超級、男子90kg級、男子100kg級、男子100kg級
27日 混合団体
※写真は橋本選手