「髭男爵」結成当時の山田ルイ53世さんと相方のひぐち君(1999〜2000年)

成人式のニュースが転機「うわっ、取り残される」抜け出すのも些細なきっかけだった

牧野:その期間中は、お父さんとの戦いがあって、大変だったみたいですね。

山田:そうですね、親もやっぱり今までそんなことになると思ってなかったんで、対処の引き出しがなかったというか、ちょっとパニックになってしまって、取っ組み合いなったりとか罵詈雑言を浴びせ合うみたいな形だったんすけど、しばらくするとちょっと見守ろうっていうモードに変わりましたね。やっぱりそれが正しいというか。

牧野:本人からすると、当時、どういう対応をしてもらいたかったんですか?

山田:僕は当時、偉そうなんすけど「もうちょっとほっといて見とってくれたら、オレちゃんとできるのに」みたいに思っていたんですけど、ただ、いま振り返ると、ほっとかれたからといって事態が好転したのかっていうと、そういう言い切る自信もないというか、これ本当に人それぞれ、家庭それぞれというか、その子ども、その親に合った対処法みたいなんかあるんやと思うんです。

牧野:山田さんがひきこもりから解放されたきっかけは何だったんですか?

山田:ひきこもりを脱したのは、20歳手前ぐらいのときに、たまたま成人式のニュースを聞いたんですよ。同世代の子たちが社会人になる、大人になるっていうこのキーワードが強くて「うわ、このままだと完全に置いていかれる」っていう焦りがすごかったんです。

牧野:そうなんですね、その焦りを利用して一歩ずつ?

山田:それこそ一歩ずつ、玄関まで行ってみようかとか、玄関に行ったら靴に足先だけ入れてみようか、とかっていう本当に1ミリ単位で脱していったっていう感じですね。

牧野:引きこもりになったきっかけも、脱するきっかけもかなり些細だったんですね。

山田:そう思いますね。他の子にとっては、なんてことない、ちょっとしたことがその子にとっては、そういう引き金になりうるということなんでしょう。

牧野:成人式のニュースを見て、あれ、これ取り残されるんじゃないかと思われたということですけども、その感覚は引きこもりの間も、ずっと取り残されるかもしれないという恐怖心はあったのか、そのとき急にこれはまずいと思われたのか、どっちだったんですか。

山田:常にその焦りみたいなものはあったんですけど、「優秀な山田くん」って、ちやほやされてたときのおごりがずっとあったでしょうね。「オレやったらいつでも追いつけるわ!」みたいに、そうやって余裕かましていたんですけど、「成人」っていうワードで同世代が完全に手の届かない存在になってしまうっていうのがやっぱり大きかったです。