世界陸上ブダペスト(8月19~27日)で、男子110mハードルの日本記録保持者、泉谷駿介(23、住友電工)が日本人史上初のファイナル進出を狙う。今季、泉谷は6月の日本選手権で13秒04をマークし自身の日本記録を更新。さらに陸上の世界トップ選手が集うダイヤモンドリーグ(DL)のローザンヌ大会で日本男子史上初の優勝、ロンドン大会では、東京五輪の金メダリストを抑え2位にはいった。

八種競技でインターハイチャンピオン

彼の強さの秘訣は、身体能力の高さ。武相高校(神奈川)3年時は、「走る・跳ぶ・投げる」の総合力を競い、キングオブアスリートと称される八種競技でインターハイチャンピオンに輝いた。競技のコツを素早く掴み、自分のパフォーマンスに落とし込む事ができる泉谷は、走幅跳や三段跳でも日本の上位争いに食い込むなど、活躍の幅は計り知れない。

そんな天才肌の泉谷が海外勢とスタートラインに立つと際立つのが身長。世界でみれば規格外ともいえる身長175cmと小柄な泉谷が、なぜ世界のトップと勝負できるのか。そこにも彼の身体能力の高さがあった。

それは自身も“強み”として挙げている「世界一速く動かす」ということ。110mハードルでは、ハードル間の歩数が3歩と決まっている。「全員が同じ歩数で走るからこの種目は面白い」と語る泉谷は、海外勢より身長が低いことをプラスに考え、誰よりもハードル間の3歩を速く動かすことに磨きをかけている。

泉谷を指導する山崎一彦コーチも、地道なトレーニングをコツコツと継続し、さらにその地道で基本的なことを精度を高くしてできることが彼の強さだと説明する。世界との差から生まれた「世界一の速さ」が史上初のファイナルへと導く。

ルーティンは「コーヒーを飲む」

大きな試合で結果を出し続けている泉谷には、試合当日の朝に「コーヒーを飲む」というルーティンがある。練習の日は毎朝コーヒーを飲み、試合1週間前になると飲むのを辞め、試合当日に飲む。好きなコーヒーを飲むことを楽しみに、試合までの練習を頑張るという。

泉谷は一度カフェイン摂取をやめることで、当日のカフェイン吸収率があがると考えている。多くの選手はカフェイン摂取をエナジードリンク等で済ませるが、泉谷は砂糖が入っているものを控えている為、コーヒーから摂取。本来は甘いものが大好きだが、シーズン中はお菓子などを我慢。そういったところからも日々の積み重ね、競技に対してのストイックさが伺える。

陸上が不可欠な生活を送っていると自分でも認める、大の陸上好き。練習が終わって家に帰っても陸上の動画を見ている。さらには、試合への移動中も陸上動画。特に良かったレースは何度も見直し、分析してステップアップへ活かす。

なぜそんなに好きなのか、と聞くと「陸上競技は辛いことが8割で、嬉しいことが2割。しかしその2割がとても大きく、嬉しい瞬間が好き」そう答えた。探求心と向上心の塊の23歳はまだまだ無限の可能性であふれている。