SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は、プロレスラーの里村明衣子氏。1995年、女子プロレス史上最年少の15歳でデビューし、38歳で世界に挑戦。イギリスで男子レスラーと戦い、女性初のチャンピオンに輝いた。女子プロレス界最強の声も高い里村氏の生き方は、男女問わず多くのファンに支持されている。世界も認めるプロレス界の賢者、里村明衣子氏に2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

「本当に強い人は人を傷つけない」 プロレスに必要なのは表現力・存在感・言葉

賢者には「わたしのStyle2030」と題し、テーマをSDGs17の項目の中から選んでもらう。

――里村氏が選んだのは?

里村明衣子氏:
5番の「ジェンダー平等を実現しよう」です。

――この実現に向けた提言は?

里村明衣子氏:
「“潰しあい”より“活かしあい”」です。

――「潰しあい」という言葉は予想していなかった。プロレスに入ったきっかけから聞かせてください。

里村明衣子氏:
私は3歳から柔道をやっていたのですが、中学2年生の時に初めてプロレスの存在を知って、姉にたまたま連れて行かれた新潟市体育館のプロレスを見た瞬間に、自分のこれからやることはこれだと、一瞬で人生が変わったんです。プロレスラーが戦っている強さと、人を説得させる力強さに衝撃が走りました。

――試合を見終わって帰ったときのことを覚えていますか。

里村明衣子氏:
覚えています。自宅に帰った瞬間に母親に「私、プロレスラーになる」と言いました。

――お母様も驚いたでしょうね。

里村明衣子氏:
最初は反対されました。当時は身長が154センチぐらいしかなく、48キロ級の体ですごく小さかったので、1年間かけて親の目の前で毎日スクワットとか腕立てとか、プロレスラーがやる基礎のトレーニングをやって、最終的にはスクワット1000回、毎日やっていました。

2005年、里村氏の所属団体が解散してしまう。そこで新たな女子プロ新団体「センダイガールズプロレスリング」の旗揚げに参加。2018年3月にイギリスの男子のプロレス団体に初参戦し、女子で初めて男子団体のベルトを奪取する。同年8月には国内の男子プロレス団体で初めての女性チャンピオンに輝いた。2021年、世界最大のプロレス団体「WWE」とコーチ兼選手として契約し、世界を舞台に選手、経営者の二刀流で活躍している。

――男子と試合をするというのは?

里村明衣子氏:
20年前ぐらいまでは日本のプロレスは、男子には男子プロレスの、女子には女子プロレスのプライドがあったので、混じるということは全くしなくて。私が2018年に初めてイギリスに行って、男子プロレスラーと試合をしてくれないかと言われたんです。私は女子プロレスでやってきたので、そういうことはしないと言ったのですが、すごく熱いオファーをいただいて。潰されるんじゃないかなと思って試合をしたのですが、試合後にスタンディングオベーションが来るぐらいものすごく盛り上がって。

イギリスのリングに立ち、男子レスラーと初対戦した里村氏は女性として初の男子団体のチャンピオンに輝いた。

――日本ではまだ珍しい男女の対決。観客はどこに熱狂したのでしょうか?

里村明衣子氏:
何が認められたかと言うと、男子プロレスラーが当たり前のようにやるラリアットとかパワーボムを里村は普通に受けている。女がここまで受けるのかという強さが衝撃的だったみたいです。その試合からどんどん男子プロレスラーとの試合が組まれ始めて、正直きつかったのですが、日本で積み重ねてきたトレーニングにすごく自信があったので、自然に男子プロレスラーと試合するようになりました。

――男子との試合を最初断っていたのはなぜですか。

里村明衣子氏:
日本の男子プロレス団体をすごく尊敬していたので、踏み入ってはいけないんじゃないかと。

――体格も体力も違うので、本気でやったら潰されるという恐怖はなかったですか。

里村明衣子氏:
男子レスラーもそうですが、本当に強い人は痛みを知っているので、人を傷つけたりは絶対しません。もちろん男子プロレスラーにその場で思いっきり殴られたりしたら当然記憶も飛びますし、すぐ負けます。プロレスは陸上みたいにタイムを競う競技でもないし、重量挙げみたいに重い物を持ち上げられたら勝ちだということでもありません。表現力とか存在感とか発する言葉とか人気とか、全て評価されて上に上がっていく世界なので、海外の選手は女子プロレスラーを活かすための試合をしてくれる。始まってゴンと殴るのではなく、あなたのすごいところはどこだ?というやり取りから始まるので。