準決勝通過ラインは“壁”ではなくなっている
今季の泉谷は5月のゴールデングランプリで13秒07(+0.8)と、自身が21年に出した13秒06(+1.2)の日本記録に0.01秒と迫ると、6月の日本選手権で13秒04(-0.9)と更新した。この記録は8月11日時点で今季世界5位に位置している。
昨シーズンまで13秒0台は1レースだけで、セカンド記録は13秒2台だった。世界大会で13秒0台を出せばメダルの可能性もあるが、一発屋に近い自身の状況に、泉谷は国際大会での自信を持つことができなかった。世界陸上の目標を質問されても、「まずは13秒1台を出すこと」と控えめな答え方をしていた。それが13秒0台を重ねるなかで、自信が大きくなってきた。
「ハードルは精神面が大きく影響する種目です。自信や、気持ちの余裕があれば(国際大会も)だいぶ違うかな、と思います」
準決勝通過ラインは、東京五輪が着順通過では13秒25(+0.3)、各組3着以下の上位2名のプラス通過は13秒32(+0.3)だった。世界陸上オレゴンは着順通過が13秒31(-0.6)、プラス通過が13秒22(+2.5)だった。
今季の泉谷なら、よほど大きなミスをしない限り準決勝は通過できる。日本人初の快挙は、やって当然という感覚に我々も、泉谷本人もなっている。
決勝にいくために鍵を握ることは? という質問に次のように答えている。
「組(のメンバー)とかもありますが、体調を整えて、しっかり調子を維持することが一番だと思います。今の調子なら普通に行けると思うので、自分を信じて、落ち着いて、冷静に臨みたい」
決勝に残ったら何を目指すのか。
「自分の走りをして、ゴールラインを目指します(笑)。順位や記録はあとからついてくるものなので、気にしません。しっかり自分の走りをして、自分の長所を出し切れたら良い結果につながると思う」
泉谷の技術の特徴や、今シーズンの進歩については後編で詳述するが、去年までとは自信の大きさが違うことを泉谷本人も自覚できている。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)