男子100mの若手、栁田大輝(20、東洋大2年)への期待が高まっている。6月の日本選手権は坂井隆一郎(25、大阪ガス)に敗れて2位(10秒13・-0.2)だったが、7月14日のアジア選手権100mに10秒02(±0)で優勝。同23日のDL(ダイヤモンドリーグ)ロンドンでは4×100mリレー日本チームの2走を任され、37秒80の今季世界最高タイでの優勝に貢献した。8月6日の富士北麓ワールドトライアルは世界陸上への調整試合として出場。10秒20(-0.4)で走ったレース後のコメントと、その後の取材で話してもらった内容を整理してお届けする。
富士北麓ワールドトライアル。「世界陸上前にレースの動きの確認という意味で走りました」
――今日(富士北麓ワールドトライアル)の走りの内容は?
栁田大輝:コンディションが良ければ標準記録(10秒00)、もう世界陸上ブダペストの有効期間ではないですけど、来年のパリ五輪に向けて切っておけば気持ちとして楽なので、標準記録を狙おうと思っていました。コンディションが悪くても練習として、世界陸上前のレースの動きの確認という意味で走るつもりでした。色んな動きをしっかり確認できたのはよかったですね。まだまだ仕上げていけると思うので、上げていく段階としてはいいのかな、と思っています。
――レース後半は少し力を抜いて、流した走りでしたか。
栁田:前半60mぐらいまではしっかり行こうと(土江寛裕コーチと)話をしていて、あとは流すというよりはそのままキープするような気持ちで行きました。まだ仕上がっていない部分もあって、後半力ずくで行ったら疲労が残るだけのレースになりそうだと感じたんです。そこは無理しないようにしました。
今季の走りの変化。「自然にピッチを回す感覚で最後まで走りを崩さない」
――今季ここまで、好調で記録を更新できている理由を自己分析すると?
栁田:冬期練習をやって筋力も増えてきて、スタートも飛び出せるようになりました。プラスのこともありましたが、そこがうまく自分の中に取り込めないというか、うまく感覚に合わせられなくて、シーズン序盤はタイムが伸びませんでしたね。
――5月のゴールデングランプリも10秒19(+0.4)で7位(日本人4位)。どんな原因でしたか。
栁田:予選(10秒13・+1.5)では、スタートは食らいついて行けたのに後半でフレッド・カーリー選手(米国、世界陸上オレゴン金メダリスト)に離されました(カーリーは9秒88)。後半無理にストライドを広げようとしていたんです。土江先生には「あそこからストライドを広げようとしてもスピードは上がらない、むしろスピードが落ちる。後半にピッチを上げていけばいいよ」と言われました。それを勘違いして一気にピッチを上げに行ってしまったので、決勝はあんな走りになりました。力ずくで脚を回しに行った感じでしたね。自分がやってきた(ストライドの大きさを生かした)走りとは、まったく別のことをやってしまったんです。それでは走れないと後から思いました。
――2位(10秒13・-0.2)だった日本選手権も終盤で坂井隆一郎(大阪ガス)選手に逆転されたわけですが?
栁田:日本選手権は80mぐらいで行けるかな、と思ってしまって。そう思った瞬間に坂井さんがちらっと視界に入り、そこで一気に力が入ってしまって置いて行かれました。日本選手権までは最後で追い上げられたり抜かれたりしまうレースが多かったです。次の実学対抗(10秒10・+0.3)で少し変わることができて、アジア選手権でやっと「あ、こんな感じだな」という走り方をつかむことができました。言葉にするのはちょっと難しいんですけど、自然にピッチを回す感覚で最後まで走りきれる、走りを崩さないような感じの走りです。
――土江コーチからは最近、どういうアドバイスが多いのですか。
栁田:力の方向について言われることが多いですね。真っ直ぐに力を持っていけ、という感じで。日本選手権もそうですが終盤で走りが崩れるときは、どこに向かって力を出しているのかわからなくなっています。バラバラの走りです。確かにその通りだな、と思います。それと、自分が一番速いと思え、と言われています。レース前にはよく、「自分が一番速い」とつぶやいていますね。日本選手権の頃からは、9秒台が出せるよ、と言ってもらっています。
――何も考えないで走れ、ということも?
栁田:常々言われていたんですが、考えてしまうことが多かったんです。実学対抗でその走りができてきて、アジア選手権で何も考えなくても後半でピッチが上がる感覚を持てるようになりました。何も考えずに、良いときの動きを出せるようになりつつあるのかな。