19年ぶり日本記録更新のマッカーサーが国内初試合

マッカーサーにとって日本選手権が、日本国内で出場する初めての試合だった。「今年はこの大会のために頑張ってきました。シーズンはまだ続くんですけど(笑)」。最後は笑いを誘う話し方をしたが、そのくらい日本選手権に気持ちを込めていた。

父親のエリックさんは日本リーグで活躍した元バスケットボール選手。母親は日本人の渡辺亜希子さん。マッカーサーは99年7月5日に米国カリフォルニア州ミッションビホエで生まれ、生後5か月で名古屋に移り、8歳まで育った。その後カリフォルニア州に戻りデイナヒルズ高、南カリフォルニア大、同大大学院を経て、現在はカリフォルニア州立大ノースリッジ校学生課職員。7歳からテニスを始め、16歳から陸上競技に専念した。16年には米国代表で世界ジュニア選手権(現U20世界陸上)に出場している。

昨年2月に日本陸連に登録し、同年4月には66m61の日本歴代4位記録をカリフォルニア州の試合でマークした。そして今年4月には68m89と、室伏由佳が04年に出した67m77の日本記録を19年ぶりに更新した。

コーチのダン・ラング氏は、室伏由佳の父親である室伏重信氏(五輪4大会代表。アジア大会5連勝)の投てきに憧れていた。

「私はあまりハンマー投の動画は見ませんが、コーチは参考にしていると思います。ですけど、私なりの投げっぷりが違うから、私なりの投げっぷりを探しています」

ラング氏は室伏広治スポーツ庁長官(アテネ五輪金メダル)とも交流があり、今回の来日中も会っている。

「由佳さんには会うことができませんでしたが、(室伏ファミリーとの)コネクションが面白いと思います」

しかし日本選手権の優勝記録は、日本記録を6m以上も下回る63m31。力を出し切れなかった。

「なんで飛ばなかったのかわかりません。メンタルも良かったですし、投げっぷりも良かったんですけど、ちょっと体調が弱かったかもしれない」

63m31は1投目で「セーフティに」投げた記録だった。2投目以降は記録を狙いに行ったが、そこで何らかの狂いが生じたようだ。「体の重さもあった」という。

しかし日本選手権の結果で、アジア選手権(7月13日、タイ)とアジア大会(9月、中国・杭州)の代表に選ばれた。「日本代表として、日本のすごさを見せたいと思っています」と、初の日の丸に意欲を見せる。
世界陸上ブダペストの標準記録は73m60。昨年から3m38も自己記録を更新したマッカーサーなので、不可能な数字ではないかもしれない。だが現実的には、Road to Budapest 23の順位を上げることが世界陸上代表入りの道になるだろう。

エントリー人数枠は36人の種目で、ボーダーラインの選手は68〜69m台を5試合で投げている。日本人初の70m台も期待できるが、世界陸上出場には70m台が必要条件というわけでもない。

マッカーサーは出場試合数が少なくRoad to Budapest 23に現時点では入っていない。だが今後の試合結果次第では、ボーダーライン付近にランクインするだろう。今後、日本を背負ってどんな姿を見せたいのか、という質問に次のように答えた。

「投げ方が綺麗で、強くて、遠くに投げられる。世界ステージでも投げられる姿を見せたいです」

その舞台が今夏のブダペストになれば、日本投てき界にとって極めて明るいニュースとなる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)