新たに世界陸上代表入りが期待できる選手たちが台頭した日本選手権となった。陸上競技の第107回日本選手権が6月1〜4日、大阪市ヤンマースタジアム長居で行われた。男子200mは鵜澤飛羽(20、筑波大)が20秒32(-0.2)の学生歴代4位で優勝した。女子三段跳は森本麻里子(28、内田建設AC)が14m16(+0.7)の日本新で5連勝。そして女子ハンマー投は4月に日本記録保持者となったマッカーサー・ジョイ・アイリス(23、NMFA)が、日本初試合を63m31で制した。6月20日時点のRoad to Budapest 23(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)順位は、鵜澤が25位(エントリー枠48人)、森本が20位(エントリー枠36人)。8月2日以降の世界陸上代表入りが有力視されている。マッカーサーは出場試合数が少なくRoad to Budapest 23にまだ入っていないが、今後出場する試合次第ではエントリー枠36人に入ってくる。
ケガをした左脚の使い方が不十分でも日本一に
筑波大3年の鵜澤飛羽が、2位に0.23秒差をつける20秒32で快勝した。昨年の世界陸上オレゴンで準決勝に進出したコンビ、飯塚翔太(31、ミズノ)は5位、上山紘輝(24、住友電工)は7位。新たな力の台頭を印象づけた。
「日本選手権は目標としてきた舞台でしたし、日本代表だった選手たちがいる中でしっかり勝ち切れたことは、すごくうれしいです」
鵜澤は高校2年時(19年)の、高校日本一を決めるインターハイでブレイクした。100mと200mの2冠となり、両種目とも追い風2.1m以上だったため参考記録となったが、10秒19(+2.9)と20秒36(+2.1)をマーク。特に200mはサニブラウン・アブデル・ハキーム(24、東レ)の高校記録20秒34に近いタイムだった。
しかし高校3年時(20年)はコロナ禍に加え、自身もケガをして出場レースが極端に少なくなった。全国大会は出場できなかった。そして筑波大1年時(21年)の5月に左脚太腿を重度の肉離れをして、シーズンを半ば棒に振った。昨年は5月の関東インカレ、9月の日本インカレと優勝し、シーズンベストも20秒54と学生トップレベルに成長した。
それでも鵜澤は自身の走りが不満だった。今年5月の静岡国際では予選20秒38(+1.1)、決勝20秒10(+2.6)をマーク。客観的には高校2年時を超えていたが、本人は「やっと高校レベルに戻った」と感じた。
谷川聡コーチは「コーナーで(肉離れをした)左脚がまだ使えていない」と現状を説明する。右脚でもコーナーの走りをコントロールできるから、日本一の走りができる。ある意味それは武器なのだが、鵜澤の完成形はまだ先にある。しかし、その過程で今季は世界陸上代表入りすることを目指してきた。
「今年はずっと世界陸上に出るつもりでいます。選ばれたら、自分の最大限の走りをブダペストの場で出したいです」
自身がまだ発展途上で、世界大会で決勝進出ができるレベルでないことは認識している。
「そういう域には達していないと思いますけど、来年のパリ五輪と25年の世界陸上東京に向けて、いい経験ができれば、と考えています」
堅実な目標を話す一方で、茶目っ気も持ち合わせている。
「あわよくば(世界陸上200m2連勝中の)ノア・ライルズ(25、米国)と走りたいですね」
ライルズは日本のアニメ好きで知られた選手で、鵜澤と趣味が共通している。無邪気な挑戦が、本人の想定以上の結果につながるかもしれない。