サッカーキリンチャレンジカップ2023のペルー戦(20日)で、日本代表は終始試合を支配。4-1で南米の強豪に快勝した。この試合の中継でピッチリポートを務めた齋藤慎太郎アナウンサー(TBS)は、横浜F・マリノスユースに所属し高校1年時には国体で板倉滉(26、ボルシアMG)や三笘薫(26、ブライトン)とチームメイトとしてプレーした経験を持つ。現役時代、板倉と同じポジションでプレーをしていた齋藤アナは彼から何を感じたのか。試合後に板倉を取材すると、多くの困難を乗り越えてきた彼の芯の強さが見えてきた。
TBSアナウンサー齋藤慎太郎です。
今回は板倉選手をペルー戦直後に直撃。W杯前から現在に至るまでのお話を伺いました。
今月の2試合、エルサルバドル(15日)に6-0、ペルーには4-1と連勝を収めた森保ジャパン。代表メンバーは躍動し、両試合で終始相手を圧倒する強さを見せました。なかでも、板倉選手は3月の代表戦からの4試合全てで、“スタメン&フル出場”を唯一記録。今回の2連戦でも持ち味の圧倒的な空中戦の強さと正確なフィードで攻守に渡り活躍しました。そのことについて聞いてみると「やっぱり試合、出たいじゃん?嬉しいよね」と笑顔。代表活動中も充実した時間を過ごしていることが伺えました。
3月のコロンビア戦や今回のエルサルバドル戦では、キャプテンマークを巻いてピッチに立つことも。「W杯を終えてより責任感が強くなりました。(新キャプテンの)遠藤航選手(31、シュツットガルト)と一緒に、チームを引っ張っていければと思います」と語った姿を見て、私は高校時代を思い出しました。
板倉選手は私より一つ学年が上の先輩ですが、大変気さくで接しやすい人。まさに”優しいお兄ちゃん”というような印象でした。試合中は、センターバックとしてコンビを組む私の状況を常に気にかけてくれ、本人は鉄壁の守備で相手を跳ね返すという、かっこいい選手でもありました。
あの時から憧れの先輩でしたが、今や日本代表の守備の要。試合を見ると、ただ歳を重ねただけでは得られないであろう落ち着いたプレーぶりを発揮。百戦錬磨のベテランの様な凄みを感じました。
そんな板倉選手ですが、カタールW杯直前の9月にとある危機に瀕していました。
膝に大怪我を負い、W杯出場が間に合うかどうかの状況になってしまったのです。
彼が苦しんでいた昨年の9月、私はドイツで行われたサッカー日本代表戦の取材で現地に行った際、怪我で代表の活動に参加していなかった板倉選手と食事をする機会がありました。
お店に現れたのは高校時代と変わらない板倉選手。笑顔での再会となったのですが、膝には金具付きのサポーターが。足を引きずるようにしてこちらに歩いてきたのを今でも覚えています。
そんな状況の中、食事をするということを申し訳なく感じていましたが・・・
話してみるとやっぱり明るい。食事をしながら様々な話をする中、なかなか切り出せなかった「W杯に間に合いますか」という質問を投げかけました。すると板倉選手は「間に合わせるでしょ」とシンプルに一言。自分自身にも言い聞かせるような姿に、私は内心、復帰は難しいのではと感じていました。ですが、そんな心配は無用でした。板倉選手は熱いプレーで日本を沸かせてくれたのです。
怪我というピンチを乗り越えた板倉選手。彼に今回聞きたかったのは、怪我をしていた当時の心境です。「もしかしたら間に合わないかもしれないという不安はあったけれど、W杯という目標があった分、ポジティブになれた。あんなに自分の身体と向き合ったことはなかったよね」と笑い飛ばす姿を見て、板倉選手の精神的な強さを改めて感じました。
思い返すと板倉選手のキャリアは決して順風満帆なものではありませんでした。
川崎フロンターレ時代には出場機会に恵まれず、ベガルタ仙台にレンタル移籍。活躍を続ける中で海外移籍を勝ち取ります。しかし移籍先のオランダ・フローニンゲンは想像以上の田舎町で、ホームシックやオンオフの切り替えに苦しんだと話していました。
そしてさらなる飛躍を求め移籍したドイツでは膝の大怪我。数々の壁が板倉選手を阻みましたが、その度に板倉選手は乗り越え、自らの糧としてきました。さらにそれを笑って振り返られる程の芯の強さ。これが私が試合中に感じた”百戦錬磨のすごみ”の正体なのかもしれません。
どんな状況でも落ち着いたプレーぶりで森保ジャパンの守備の要として活躍を続ける板倉選手ですが、エルサルバドル戦では積極的に攻撃にも参加。シュートが惜しくもキーパーに阻まれたシーンを振り返り「決められないか~、って感じだよね。決められたらもっと存在感が出ると思う」。まだ現状に満足していない様子です。自身が理想とする姿はもっと高みにあるのだと感じました。
DF経験者の私としては、センターバックというのは目立たないポジションではありますが、後方でチームを支える司令塔の板倉選手にぜひご注目いただきたいです!