中国政府は、少数民族地域の学校、とりわけ初等教育の現場で、標準中国語を使うよう、指導を強化している。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、その背景を解説しながら、「少数民族居住地域の教育現場に対する引き締めが、強まりそうだ」とコメントした。

◆モンゴル語の文法と中国語の文法は異なる

現役は横綱・照ノ富士。引退した横綱なら、朝青龍や白鵬、日馬富士、鶴竜もいる。大相撲のモンゴル出身力士は、横綱だけでもいま挙げた5人おり、長く角界の一大勢力となっている。私は、彼らの流暢な日本語に驚かされる。きょうのテーマはそれに関連する。

「なぜモンゴル出身者は日本語が上手なのか」。本人の努力はもちろんだが、彼らが使ってきたモンゴル語と日本語の関係性も大きい。日本語とモンゴル語は言語の形態が似ているのだ。意味を持つ語(=自立語)にプラスして助詞や助動詞がつく構造は日本語もモンゴル語も同じ。言語の分類でいうと、「膠着型」という。

例えば、「私はペンを持っている」なら、「は」や「を」はそのもの自体には意味がないが、その前後、意味を持つ「ペン」や「持っている」を「膠着」、つまり引っ付けている。もう一つ。語順(SOV・主語+目的語+動詞)も同じ。文法もかなり似ているので、モンゴル人にとって、日本語は学びやすい言語、と言われる。

一方、英語や中国語は(SVO・主語+動詞+目的語)と、語順をはじめ文法が異なる。モンゴル人と同じ民族、中国国内に住むモンゴル族(主に内モンゴル自治区)が、ふだん使っているのはモンゴル語。標準中国語はやや縁遠い存在だ。

◆習近平主席が標準中国語使用の徹底を命じる

中国政府は少数民族地域の学校、とりわけ初等教育の現場で、標準中国語を使うよう指導を強化している。習近平主席が6月、内モンゴル自治区を視察した。そこで少数民族であるモンゴル族の学校で、標準中国語使用を徹底するよう命じた。

“国家が編さんした統一教材の使用を推進し、すべての少数民族の青少年が、国内共通の言葉、文字を確実に使えるようにならなければいけない。”

発言は、内モンゴルで行ったが、これは国内すべての少数民族に向けたものだ。中国は広大な国土に14億人が住む。人口比では漢族が9割、残る1割が少数民族だ。その少数民族は55もある。

習近平主席のメッセージは「人口9割の漢族が使っている中国語の読み書きを覚えなさい。その中でも、会話で方言を含んだ中国語ではなく、アナウンサーがしゃべるような標準中国語を話せるようになりなさい――」という意味だ。習主席は同じ演説で、こうも言っている。

“中華民族は一つの共同体である。その意識を固めることが、新しい時代の共産党の民族政策の主軸である。同時に民族地域におけるすべての政策の主軸でもある。

法律、規制、政策。そのいずれであれ、導入にあたっては、中華民族は一つであることを強化し、中華民族の共同体意識を高めることを見据えなければならない。”

「民族地域」とは、中国国内の少数民族が多く住むエリアを指す。習主席が訪れた内モンゴルはモンゴル族が多く住むから、モンゴル族の自治区となっている。習近平主席が多用する有名なスローガンに「中華民族の偉大なる復興を」というのがある。この「中華民族」という言葉には、漢族も少数民族も含めたすべての中国人という意味がある。