ロボット手術は、まるで患者の体内にいるような“没入感”!
ーー鮮やかな手のひら返しですが、ダ・ヴィンチは具体的にどこが便利なのか教えてください。
「ダ・ヴィンチは『ペイシェントカート』『ビジョンカート』『サージョンコンソール』という3つのパートで構成されています。
ペイシェントカートには鉗子や内視鏡を装着するアームが4本ついており、これらが患者さんの体内に入る部分です。手術中の様子はビジョンカートのモニターに映し出され、助手にも共有できます。
そして執刀医はサージョンコンソールのイスに座り、コントローラーでアームを遠隔操作。まず座れることが医師にとっては楽で、長時間の手術に向いていますね。
ロボットを使えば必ずしも手術時間が短くなるわけではなく、セッティングの手間などが生じる分、むしろ通常の腹腔鏡手術より長引くこともあります。とはいえ、本来は何時間も立ちっぱなしで手術しなければなりませんから、座ってリラックスできるだけでも優秀なのです」

ーーなるほど。先生は70歳を過ぎても月に20件ほど手術しているそうですが、ダ・ヴィンチは医師の体力的な負担をカバーしてくれるわけですね。技術面でいいますと?
「手につけたセンサーとアームが連動するため、自由度がとても高いです。腹腔鏡手術の欠点は、患部の奥まったところで鉗子を操るときにブレてしまいやすいことなのですが、ダ・ヴィンチには手ブレ補正機能がついており、その危険がありません。
また、2つの内視鏡によって3Dで体内を見ることができ、遠近感がわかりやすいのも特徴です。まるで患者さんの体内にいるような没入感で手術できます。
つまりダ・ヴィンチの真価が発揮されるのは、骨盤腔のように、深くて狭い部位の難しい手術をするときだといえるでしょう。腹腔鏡手術のスペシャリストではない普通の医師でも、ロボット手術なら成功できてしまうくらいの違いがあります。
ちなみにアメリカで泌尿器科のロボット手術が流行った理由は、肥満でお腹の大きい方が多く、開腹手術だとやりにくかったからです。もはや、開腹手術の経験しかないのにロボットで腹腔鏡手術に挑む医師もいるようで、それほどアメリカでは一般化してきたということですね。
日本でも症例数を重ねていくうち、2012年にはロボット手術として初めて、前立腺がんが保険適用になりました」

ーー2023年6月現在、日本では約20種類のがんに対してロボット手術が保険適用になっています。着実に市民権を得ている証でしょうか?
「まだ歴史が浅いのでメリットや安全性の検証に時間がかかっているものの、従来の腹腔鏡で行える手術はいずれ全部、ロボット手術でも保険適用になるだろうと予測しています。
婦人科の私の患者さんにも、ダ・ヴィンチの導入当初は『ロボット手術は怖い』という方がいらっしゃいましたが、最近は自ら希望される方が増えてきました。開腹手術に比べて痛みが少なく、早めに仕事復帰しやすいですからね。
医療ドラマ『ブラックペアン』(2018年放送)で、ダ・ヴィンチが『ダーウィン』という名前で登場したのも、ロボット手術の浸透に影響しているでしょう」