今、医療分野でのデジタル化が加速しつつあります。医療DXともよばれ、サービスの効率化・質の向上、最適な医療を実現するための基盤整備を推進するもので、昨今話題のマイナ保険証もその一環です。実は、この医療DXにコミットしようと、あるロボットたちが勢力を増していることをご存じでしょうか?その代表格が「ダ・ヴィンチ」です。
はじめ、手術支援ロボットは日本で歓迎されず?
手術と聞いて皆さんがイメージしやすいのは、医師がメスで患者のお腹を切り開く「開腹手術」かもしれません。しかし日本では1990年代から、お腹に穴を開けて炭酸ガスで膨らませ、内視鏡(カメラ)や鉗子を差し入れる「腹腔鏡手術」が広く行われるようになりました。
腹腔鏡手術はお腹を切るよりも傷が小さく、出血量が少なくて済むなどの利点があります。その反面、鉗子の操作が難しく、医師の力量が問われやすいことがネックでもありました。
そこで役立つのが、先述したダ・ヴィンチなどのロボット。“彼ら”に頼れば、技術の差に関係なく腹腔鏡手術にトライできるといいますが…いったい、どのようなロボットなのでしょうか?
2009年に婦人科で日本初のロボット手術を担当し、現在は東京国際大堀病院の副院長兼ロボット手術センター長を務める、井坂惠一先生に聞きました。


ーーダ・ヴィンチはロボットというか、巨大な医療器具という感じですね。初めて見たときの印象はどうでしたか?
「正直『なんだこりゃ』と…。
ダ・ヴィンチは1999年にアメリカで完成しました。その後、日本でも2000年ごろには慶應義塾大学や九州大学に導入され、治験に使われましたが、当時はあまり評価されなかったようです。
日本ではどちらかというと、『鉄腕アトム』みたいな自立ロボットが好まれ、ダ・ヴィンチみたいな支援ロボットは興味を持たれなかったのかもしれません。求められていたのは、手術を自動で全部こなしてくれるようなロボットだったのでしょう。
2006年には私が勤めていた東京医科大学にも、日本で4台目となるダ・ヴィンチが入ってきましたが、狭い手術室にドーンと置いてあると邪魔で、まだロボット手術に詳しくなかった私は『どうしてこんな大きい荷物を…』と、厄介に感じていました。
転機は2007年で、アメリカの学会に参加したとき、向こうでは泌尿器科を中心にロボット手術が流行っていることを知ったのです。『あれ?あの機械はうちの病院にもあったな』と気づき、帰国後に使ってみたら、難しいはずの手術がすごく簡単にできてしまうことに驚きました」