ーー『誘拐』と言われると…ではどうすれば良いのでしょうか?
「とにかく見守ってください。動物同士の争いで怪我をしていたとしても、それで食べられればそれが自然の摂理です。ただ禁止されているトラバサミのような罠や、車に轢かれた様子であれば、私たちのようなお近くの自然環境保全センターなどに連絡してください」
ーータヌキ以外でもそういった事案はあるのでしょうか?
「むしろ一番多いのはひな鳥、鳥類です。やはり木の下でよちよちと飛んでいるひな鳥は簡単に捕まえられてしまいますし、親鳥から離れたように見えます。鳥の場合はおぼつかない状態で、地面に落ちながら少しずつ飛べるようになっていきますので、連れ去らないでください」
愛らしいけど…助けたいけど…見守って!家庭では難しい保護の実情

親にとっては誘拐。確かに、急に子どもがいなくなっては親はさぞかし驚くだろう。しかし、動物の子どもの立場になってみたら、保護することで目の前の危険を回避できることもあるのではないだろうか。しかし、誤認保護は、保護された個体の将来にさらなる危険を及ぼすのだと江指自然保護課長は指摘する。
ーーたとえば、仔ダヌキが危険にさらされているから、とっさに助けて、保護するなんてこともやらないほうがいいのでしょうか?
「そもそも犬や猫などのペットとして飼われている動物以外は、野生のものを保護すること自体、法律で禁止されていますので、どうか見守ってください。
法律だからというだけではなく、見守ることがその個体の将来のためでもあるんです。
一度人の手についた動物は、においなどで、それ以降親に育てられなくなることもあります。自然界で生きていくことが難しくなってしまうわけです。
また、保護して、どんなにちゃんと家庭で世話をしたとしても、慣れた自然環境から離れた動物は半分ぐらいが死んでしまいます。
保護されてしまい、私たちの施設で引き取らざるをえないこともあるのですが、専門家である私たちでも、けがをした動物を野生に返すという点では非常に苦労するのです」
ーーなぜですか?
「まず野生から離れると、エサを獲る術を教えるという部分が難しいんです。生きたエサを与えてもやはり環境が違う。また上手く自然に帰れたとしても、人のもとで育ったが故に人慣れしてしまって、私たちの住む世界の近くまで来てしまう。そうすると“害獣”と呼ばれ駆除等の対象になりかねません」
ーーつまるところ、親にとっても、子どもにとっても、とにかく拾わないことがベストということですね…。
「そうです。自然の中で命を終えられれば、また別の動物の糧になります。しかしそれを拾って、人間の世界で命を終えてしまうと、その自然の環から外れて、動物たちのえさを奪うことになります。野生動物は、食う喰われるの関係で命が繋がっていて、強弱や上下というより、一つの環をつくっているというイメージなんです」
可愛い赤ちゃんの写真から始まったツイートには、自然の「輪」を守るための厳しくも切実な思いが込められていた。