人間の世界には「非モテ」に悩む男性がいます。これをこじらせると、自己否定感がどんどん強くなり、辛くて苦しい日々から抜け出せなくなってしまいます。
一方、ブルーギルという魚の世界には、「非モテ」が一発逆転するユニークな勝ち方があります。「どうぶつ奇想天外!」の映像からご紹介しましょう。
ちなみに、ブルーギルは2005年に特定外来生物に指定されています。
(TBS「どうぶつ奇想天外!」初代プロデューサー 戸田郁夫)
ブルーギルにも厳しい“恋愛格差”が!
1996年の初夏、琵琶湖の浅瀬ではブルーギルの恋の季節が始まっていました。
たくさんのオスたちが、尾びれを振って湖底の砂を掃くようにして掘り、すり鉢状の巣を作っています。そこにメスを誘って産卵を促し、精子をかけて子孫を残す。そのために一心不乱に働きます。
立派な巣を作らないと相手にされないので、オスたちは必死です。たくさんの巣が密集しているので、となり同士のいざこざが頻発します。
やがてメスの集団が近くに寄ってきました。オスは自分の巣の中をくるくる旋回してアピールします。

彼女たちはそれぞれオスの品定めをはじめます。
「どの巣にしようかな…?」
メスたちはそれぞれ気に入った巣のオスと意気投合。ペアダンスで気持ちを高めていき、メスが巣に産卵するとオスは精子をかけて受精させます。
その後、オスは受精卵がふ化するまで、ゴミを掃除したり新鮮な水を送ったりして、大切に育てます。

ここに恋愛ドラマが生まれます。
当然のことですが、立派な巣を作れる大きなオスの方がモテます。人気のオスは、何匹ものメスと踊っては精子をかけ、時には20万個もの受精卵を抱えることになります。
その一方で、お嫁さんが1匹も来ないオスも出てきます。
ブルーギルの激しい「恋愛格差」です。
ですが、小さいオスの中にも意外な方法で、この「格差社会」を生き抜く者たちが出てきます。
“恋愛弱者”も負けてはいない!その奇襲作戦とは…?
格差社会を生き抜く方法。
それは、最初からこの「巣作り競争」に参加しないやり方です。
巣を作らずに、子孫を残す戦略とは…?
そのひとつはスニーキング(しのび寄り)。
巣の中でメスが産卵した瞬間に、どこからともなくスッと現れて、巣の主よりも先に精子をかけて逃げていくのです。一瞬の勝負です。
体は小さくてぜんぜんモテないけれど、素早さでは誰にも負けません。
もうひとつは女形(おやま)戦略。
姿形はメスそのものなのですが、実はオス。
巣の主がメスだと思って油断していると、本物のメスが産卵した瞬間に精子をかけていきます。

彼らの繁殖行動においては、メスが産んだ卵を受精させるのが最終ゴールなのですから、巣作り競争に参加しなくても勝つことができるのです。
結果的に、そういう遺伝子もまた、子孫に引き継がれていきます。 弱く小さいオスでも子孫を残すことができる。ブルーギルという種の中にも、多様性があるのです。
人間から見ればズルいやり方かも知れません。でも、ブルーギルにはそもそもルールというものがありません。
野生の世界は、人間社会のルールや倫理を超越しているのです。だから面白い。
これを撮影した1990年代、私たちは「スニーカー戦略」や「女形戦略」という研究者がつけたネーミングを面白がっていました。「恋愛は戦略」という冷めた視点が新鮮だったのかもしれません。
人間は恋愛をロマンチックな夢のあるものだと思っているかも知れないけれど、自然の世界ではもっとリアリスティックで合理的なものだったのです。
