男子やり投のディーン元気(31、ミズノ)にベテランの貫禄が漂っている。陸上競技の第107回日本選手権が6月1~4日、大阪市ヤンマースタジアム長居で行われる。昨年の世界陸上オレゴン9位のディーンは、大会初日(6月1日)に登場する。標準記録の85m20を投げて3位以内に入れば、8月の世界陸上ブダペスト代表に内定する。自己記録の84m28は、ロンドン五輪で9位に入った12年にマークした。20年に復調して84m05を投げ、昨年は技術が安定してオレゴンでも再び入賞に迫った。標準記録は未突破でも、ディーンに焦りはまったく感じられない。
GGPは抑えた助走でも82m
焦点はディーンのベテランらしさが、日本選手権でどう発揮されるか。今季は3戦して以下の成績を残している。
4月29日織田記念:1位=77m94
5月5日DLドーハ:7位=79m44
5月21日GGP:1位=82m03
初戦の織田記念は「助走が前に進みすぎた」ため、投てきラインに近い位置で投げることになり「腕を振れるポジションに全く入れなかった」という。昨シーズンに比べ体重を3kg落としたが、筋量は2kg増えている。助走の1歩の伸びが大きくなった。
2戦目のダイヤモンドリーグ(DL)・ドーハ大会は、向かい風が強すぎた。
「(世界トップ選手たちに比べ)初速が弱いので、風にやられてしまいました」
それに対してゴールデングランプリ(GGP)は「85mくらいを狙いに行けた試合」だった。
「5、6投目は惜しい投てきでした。技術的な部分をやるために慎重になり過ぎて、ゆったりした助走で走ってしまいました。そこを無心で、ある程度スピードを出して走って行けば、上手く投げられたのかもしれません。それでも82mくらいの距離は飛んでいるので、85m以上の力があることは確認できました」
しかし助走スピードを速くした場合、技術的なところが追いつかなくなる可能性もある。助走スピードのアップは諸刃の剣ということにもなるが、「国内の試合は負けられない試合」という要素が強くなる。そのなかでどれだけ思い切った試技ができるかが、日本選手権では問われることになる。
「負けられない」日本選手権だが代表選考では気持ちにゆとり
その一方で、世界陸上代表入りに関して焦りはない。Road to Budapest 23(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人カウントした世界陸連作成のリスト)の順位が、5月29日時点で13位。男子やり投のエントリー選手枠は36人だが、標準記録突破者は8人だけで、標準記録突破者を除くとディーンは5番目のポジション。
日本選手権で3位以内に入れば、Road to Budapest 23の順位が確定する8月2日以降に代表に選出される。DLドーハ大会とGGPという、順位ポイントの高い試合で結果を残したことで、早めに安全圏に入った。
日本選手権は「100%負けられない」という気持ちで臨むことになるが、代表入りという部分で焦りはない。日本選手権後のダイヤモンドリーグなども活用して、8月の世界陸上本番までに今季の投げを完成させたいと考えている。
重要なのは6回の試技のうち前半で、優勝や3位以内を確定させるような記録を投げることだろう。5、6回目の逆転はドラマチックではあるが、それでは勝つことを優先した試合内容になってしまう。
勝つことよりも技術や助走スピードなど、今シーズンの投げを完成に近づけることを一番の目的としたい。
前半で好記録を残した上で、後半の試技で国際大会で勝負を挑むための投げを試してみる。いくつもの要素を複合的に成功させる必要があり、そのための技術や助走スピードをコントロールする。場合によっては、そこを成功させるためには何も意識しない選択をするかもしれない。
日本選手権のディーンは85m20の標準記録を突破する可能性も、勝つことにこだわった試合をする可能性もある。いずれにしてもベテランらしさが発揮できていれば、ブダペストでの入賞が期待できる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)