「人生で一番、自分を見つめ続けた8か月やった」

 抗がん剤治療中に新型コロナウイルスにも感染。笑顔で話す西さんですが、心の中にはさまざまな感情が渦巻いていました。

 「落ち込む時にとことん落ち込んだんですよ。めちゃくちゃ怖かった時に、その怖いのをなかったことにして『大丈夫、私は』って乗り越えたことは1回もなくて。怖いな、死ぬのが怖いんやな、じゃあなんで死ぬのが怖いんかなってずっと、ずっと、ずっと自分に寄り添って、ほんまに自分を慈しんだ。自分を見つめ続けた8か月やったので、人生で一番」

 そして、この経験は“作家・西加奈子”にも変化をもたらしました。

 「いままで自分も小説を書いてきた分、小説なりのクライマックスがあったりして、エピローグを書いて小説が終わるみたいなところがあったんですけど、実際自分ががんになって、エピローグとかクライマックスが終わっても人生は続くんやなっていうのをすごく感じました。物語が終わったあとも登場人物の人生は続いていくんやということを身をもって体感したので。作品を量産していると登場人物のことを忘れてもうたりするんですよね、書いた後の。でもそれはちょっとなんか嫌やなって。登場人物ととことん付き合うということをしたいなって思います」