春になると、毎年のように起こる農作物の凍霜害。

今年は作物の生育が早まっていますが、そのことで逆に注意が必要な面があるといいます。


(松倉敏夫さん)
「きのうあたり発見したから畑全部見てみようかなと思ってたんだけど、全部やられてそうだなあ…」

須坂市の松倉敏夫(まつくら・としお)さん。

先週、育てているリンゴが霜の被害にあいました。

「こういうのは中心花残しても…ここで活かすしかない。いいリンゴできないだろうけど、真ん中をふつう残してこれを取る。これを活かすの真ん中を。一番のリンゴになるのが真ん中、本当はこうなる。普通はもうこれみんな取っちゃう、周りは。これだけを大きくさせてちゃんとしたリンゴになる。その肝心の真ん中がやられちゃってるから」

おしべやめしべがある花の真ん中の部分が凍って茶色に変色し、受粉できない状態になってしまいました。

「だめだ…。今年はだめだ」

毎年のように起こる春先の低温による凍霜害。

長野県のまとめでは、2021年は4月に4回、合わせて20億円余りの被害が発生。10年前の2013年には4月下旬に35億円余りの被害が出ました。

ここ10年ほどでも、被害が確認されなかったのは、2018年の1回だけです。

2023年は、冬が暖かかったため、植物の生育が10日から2週間ほど早まっています。


しかし、そのことがリスクを招く面があるといいます。

(県農政部農業技術課堀道広(ほり・みちひろ)主任専門技術員)
「生育が進めば進むほど低温には弱くなってくる傾向がありますので、より被害が発生した場合は大きくなる可能性があります」

実は、農作物は芽、花、実と生育が進むほど寒さに弱くなります。

寒さに耐えられる目安の「安全限界温度」は、リンゴの「ふじ」の場合、発芽した段階がマイナス2・1度、花が開くとマイナス1.5度に。ナシの「幸水(こうすい)」の場合は発芽期がマイナス3.6度、満開期がマイナス1.3度となり、寒さに弱くなります。

5月いっぱいは注意が必要だという凍霜害。どのような対策が考えられるのでしょうか?

(堀道広主任専門技術員)
「一番は『燃焼法』っていって火を焚いて、園地の温度を上げたり、『送風法』といって防霜ファンで上空の温かい温度を下におろして防ぐということがあります」

対策の一つが、ものを燃やして周りを暖め、花芽の凍結などを防ぐ燃焼法。

かつては古タイヤなどを燃やしていました。

長野市でモモを栽培する田中慶太さん。

2021年に凍霜害で被害を受け、2023年から「燃焼法」を始めました。

現在は、安全面や環境への負荷に配慮して、専用の缶に灯油とロウを入れて焚いています。

(田中慶太さん)
「0度からマイナス1度で点火を考えている。桃が危ないのはマイナス2度からマイナス1度くらいでそのくらいの気温になったら着火をして霜被害から木を守る。そんな感じです」


「午前3時です。気温はマイナス1度です」

4月は冷え込みが予想された9日と18日に、畑で燃料を燃やしました。

夜通しの番が必要ですが、今年は被害を受けていません。

(田中さん)
「すべては無理だから弱いものだけやっていく」

冷えた地表部分に暖かい空気を送り込む、防霜ファンも有効な対策です。

須坂市で先週、リンゴが被害を受けた松倉敏夫さん。

その畑から直線で500メートルほどの別の畑には、ほかの農家と共同で設置した防霜ファンがあり、被害はありませんでした。

(松倉敏夫さん)
「こっちは大丈夫だったから何とかカバーしようと思って。防霜ファンに頼るしかない。燃料で火焚いてっていうけど夜中までできないよね」

このほかに、地面の下草を短く刈り込んだり、水をまいたりすることで、地表の温度の低下を防ぐ方法がありますが、コストや労力が課題となります。

専門家は、被害を受けた後も適切な対応が必要だといいます。

(県農政部農業技術課・堀道広主任専門技術員)
「実がなっていないんで、木は元気になっちゃうんですよ逆に。実を大きくする栄養、肥料もくれてあるんで、実がないと肥料の行き場が枝の方へ行っちゃってぐんぐん伸びちゃって、逆に枝が混んじゃったりするので」

花が被害を受けても人工授粉で実がなることがあるほか、しばらく様子を見て、翌年の栽培に向けて果樹の状態を管理することも大切だといいます。

(堀道広主任専門技術員)
「これから注意するものは発芽しているものは全てですね。天気予報とか地区ごとに細かく最低気温が出てますので、危険温度に近くなりましたら、対策をやっていっていただけたらと思います」