今年の就職活動も解禁されましたが、就職活動といえばまず履歴書やエントリーシートの提出をします。そこにはほとんど顔写真を貼る欄がありますよね。この顔写真、果たして問題はないのか?
今回は、就職活動の顔写真から考える『見た目問題』の現状と課題について考えたいと思います。

「見た目問題」で5.8倍もマイナス評価?

『見た目問題』とは、あざや脱毛症など外見・見た目に症状のある当事者が直面する問題を指します。
こうしたなか、『見た目問題』について研究してきた、自身も髪や肌が白いアルビノの当事者でもある中京大学教養教育研究院・講師の矢吹康夫さんが、履歴書の顔写真が採用の判断に及ぼす影響について調査をしました。矢吹さんのお話です。

中京大学教養教育研究院・講師の矢吹康夫さん
「ぱっと見で目立つ症状の場合の方が低く評価されたなということ、特に脱毛症がものすごいマイナス評価だったわけですね。恐らく、脱毛症っていう風に説明しなければ病気と思わない人って絶対いると思うんですよ。そのように誤解をして、自分の意思でスキンヘッドにしているとかですね、そういった点でもよく知られていない病気とか、ほかのものに誤解されやすい、さらにぱっと見でいちべつしてすぐに分かる目立つ症状のものかなとは思います」

見た目問題の当事者は就職活動で差別されているという感覚はあってもそれが何か表れている具体的な数値などはありませんでした。
そこで、矢吹さんは、企業の人事担当者を対象とした調査で、メガネ、茶髪、肥満、眼瞼下垂症…これは上まぶたを上げる筋肉の力が弱くなったりしてまぶたが下がってきて見にくくなる病態いいますが、あとはアトピー性皮膚炎、赤あざ、円形脱毛症の見た目の写真を作成して、企業の人事担当者818人に評価してもらう調査をしました。
すると特にマイナス評価となることがわかったのは円形脱毛症の男性で、特徴のない「平均顔」の男性に比べおよそ5.8倍の影響があることが分かりました。
ほかには、顔の赤あざのある男性もマイナス評価でしたし、肥満に関しては男女ともに低く評価されていましたが特に男性よりも女性の方が強い影響があることがわかりました。

当事者の実態、本音から浮かぶ問題の根本

では、採用される側の『見た目問題』当事者からはどんな声があるのでしょうか。これも矢吹さんに聞きました。

中京大学教養教育研究院・講師の矢吹康夫さん
「患者会の方々に聞くと、まぁ脱毛症の場合はほとんどウィッグかぶってやってるよ、と。症状を隠して就活をほとんどの場合はやってますよね、というか。で、あざに関しても、これはたぶん男性よりも女性の方がですけれども、メイクで隠すっていうような感じで。就活を始めるから改めてそこで初めて隠すようにしたっていうのはそれほど多い訳じゃないんですけれども、元から学校とかで色々とトラブルになるというか、からかわれたりっていうのを避けるために前々から既に症状を隠していた人たちの場合は、もうそんなの引き続き就活でも慣れていたから苦痛というわけではないにしても、ですね」

就職活動以前に、生活するうえで不利を感じると思った当事者たちが、ウィッグをかぶったりメイクで隠したりして、委縮させてしまう社会の方に問題があり、この社会が変わらないといけない、と矢吹さんは強調します。

改善進む大学入試の取り組み

では、変化はないのか?例えば、大学の入試においてはこうした公正な選考が行われていることを教えてくださいました。

中京大学教養教育研究院・講師の矢吹康夫さん
「実際の大学の入試なんかの場合は、教室で試験監督をしている人たちは顔写真を持っているんですよね。そこで確認しているんですけれども、採点する人たちの手元に届く答案には受験番号しかなくて写真どころか、名前もない。という風な形で、顔写真を提出させるにしても少なくとも採用選考の判断に関わる人たちが、タッチできない状態にするっていうことは必要だと思いますかね」

就職活動は変われるか?

大学入試ではこのように対応されているということですが、就活用の履歴書も、顔写真以外の部分は変わってきています。
2021年に、性的マイノリティ当事者の声を受けて、厚生労働省が示す履歴書の様式欄から性別の記入が任意になりました。
写真欄についても、『見た目問題』の当事者を中心に「履歴書から写真欄をなくそうキャンペーン」で1万2千筆を超える署名が集まりましたが、まだ実現には至っていません。
確かに、いきなり写真をなくすのは難しいかもしれません。ただ、矢吹さんも話していたような大学入試の方法で、たとえ顔写真を提出させるにしても、少なくとも採用選考に関わる人事などがタッチできない状態にするっていうことは必要ではないでしょうか。
矢吹さんは、今回の調査結果の報告書を、大学のキャリアセンターのようなところに置いて、理解を深め、履歴書から写真欄を無くしていきたいと話していました。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・TBSラジオキャスター 加藤奈央)