買収の背景は大量の預金流出 わずか1日で1兆4000億円も

スイス政府は19日、スイスの銀行最大手UBSが2位のクレディ・スイスグループを救済目的の買収で合意したと発表した。買収額は日本円で約4260億円となる見込みで、1兆円と言われる時価総額を大幅に下回る。買収は2行の株式を交換する形で2023年末までに完了させるとしている。

クレディ・スイスの経営不安が一気に高まった原因は、大量の預金流出だ。10日、アメリカのシリコンバレーバンクの破たんを機に金融不安が広がる中、かねて経営不安が指摘されていたクレディ・スイスの株価が急落した。イギリスメディアによるとわずか1日で100億スイスフラン、約1兆4000億円の預金が流出したという。

これを受け、自力再建は困難と判断したスイス政府は、破格ともいえる買収条件を取りまとめ、わずか1週間でスピード決着を図った。この買収をめぐっては一定額以上の損失が出た場合、スイス政府が90億スイスフラン、約1.3兆円を保証するとしている。
――これは買収というよりは救済ということなのか。

慶応義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
ほぼ強制的な買収という形ですが、そうしないとスイスの金融セクター全体に不安が及んでしまいますし、欧州全土にも影響しますので、かなり無理して急いで買収をさせる必要があったのかなと思います。
AT1債と言われるものに火がついた形になっている。AT1とは、自己資本に算入可能なため、多くの銀行が発行しており、世界の発行残高は約33兆円に上る。高い利回りを得られることから、投資家が多く購入している。今回の買収では普通株式より救済順位が上位のAT1債が無価値とされたことから、金融機関の株価が下落し、新たな動揺が広がりつつある。

――AT1債発行残高33兆円の大半が欧州の銀行で、これが今回無価値になったことから、ヨーロッパの銀行の信用不安を煽るような形になった。
慶応義塾大学 白井さゆり教授:
クレディ・スイスのAT1債の目論見書には、こういう有事の際には普通株主よりもAT1債の債権者の方がロスを受けるということが書いてあるので、別に驚くことではありませんでした。バーゼル規制などの考え方では普通株式が先なのですが、スイス特有の法律の関係があるのだと思います。ただ、それが不安を作ってしまって、これから欧州の銀行がAT1債を発行するのは難しくなっていると思います。
――24日にはドイツ銀行をはじめヨーロッパの銀行株が軒並み下がった。クレディ・スイスの問題がヨーロッパの金融大手に飛び火する危険性はないのか。
慶応義塾大学 白井さゆり教授:
リーマンショック後に多くの大手銀行はかなり規制が強化されているので、大きな破綻は考えにくいです。必要があればECB(ヨーロッパ中央銀行)が潤沢に資金供給するとかいろいろな支援をすると思います。