G7議長国である日本の総理と時を同じくして進行していた習近平国家主席のロシア訪問。ウクライナとの仲介や、逆にロシアへの軍事協力などが注目されたが、そのどちらも具体的なことは何も出てこず、ロシアとの力関係が浮き彫りになっただけだった。習近平氏は今後何を狙うのか…。中国の思惑と本音を読み解いた。

「ロシアに“ああしろ”“こうしろ”というのは逆効果だ」

モスクワで相対した習近平氏とプーチン氏。公式会談の前日、通訳だけを交え二人だけで4時間半、非公式に会談した。冒頭二人は互いを親友と呼び、習氏は3選後初めての訪問国にロシアを選んだことを強調した。中国はロシアとウクライナの戦争の仲裁役を目指すと言うには言うがそれは実現性のある話なのか…。そもそも中国は本気で仲裁を考えていたのか?
番組では中国政府の考えを代弁しているとされる専門家にインタビューした。

中国人民大学 EU研究センター 王義桅 教授
「仲裁と対話の促進は両国から信頼を経て順を追って進めなければならない。西側諸国のようにロシアに“ああしろ”“こうしろ”というのは逆効果だ。中国がそんなことをしたら台無し。話し合いはできなくなる。最終的に誰もロシアに影響を与えられなくなる方がまずい。そう考えるべきだ。中国はまず最大限の包容性を持って各方面から受け入れられることを強調する。(中略)ゼレンスキー大統領は2014年のクリミアを含めロシアが占領したすべての領土を放棄してほしいと言うが、肝心なのはどの程度それが現実的なのかということ。ウクライナが一部を放棄したり緩衝地帯を設けたりすれば、ロシアとある程度バランスを取れる。ロシアも多くの軍人を亡くし、1万件以上の制裁を受けるなど犠牲が大きい。もしウクライナに何もかも返してしまったら、ロシアの大統領はどうやってロシア国民に説明するのか…。撤退や領土の返還に関しては中国が決められることではない。」

領土問題などは今後の戦場での状況次第だという。習氏とゼレンスキー氏との会談に関しては慎重だという。

中国人民大学 EU研究センター 王義桅 教授
「ゼレンスキー大統領が中国にロシアを非難しろとか、軍の撤退を促すよう要求するとか、“ああしろ”“こうしろ”と難しいことを求めてくるのを恐れている」

最後に、中国は実際にどんな仲裁ができるのか聞いた。すると食糧問題、エネルギー問題、復興支援、人道的な問題など、実務的にできることをやることで仲裁役の形を担うのだという。

「(中国は)中立的仲裁者のフリをする」

結局、停戦の調停であるとか、平和への道筋は考えていないようだ。元防衛大臣の森本敏氏も停戦交渉や領土問題の仲裁などを中国の仲裁で行うことは現実的ではないという。

元防衛大臣 森本敏氏
「やっぱりロシア軍即時撤退とか、東部南部を返還しろとか中国が言いだすのは現実の問題として無理。それをすると中国とロシアの信頼感が失われちゃう。だからロシアでも妥協できそうな問題で、しかも中国は外交上の仲介をしたっていう成果が出る問題をやる…たとえばロシアが拘束しているウクライナの子どもを開放させるとか、ウクライナの食料の輸出をロシアが制限しているのをやめさせるなど、中国のおかげで状況が改善した形を作れれば外交的成果となる。重要なことは、中国はこれ(モスクワ訪問で成果をあげること)に失敗したら、習近平氏3期目の最初の外交的イニシアチブに失敗して帰ることになる。それはどうしても容認できない」

中国の今回の行動を番組のニュース解説、堤伸輔氏は…

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「一言で言えば中立的仲裁者の役割を演じ続ける。中立的仲裁者のフリをするということ。それは必ずしも実際の会談の中で中立的なアドバイスをしたりすることではなく、・・・実際にはロシア寄りの話をしながらも表向きは中立であるようなポーズを取り続ける。それが今回の中国の目的だと思います」