1966年、旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害された事件で死刑判決を受けていた袴田巖さん(87)の再審=裁判のやり直しが確定しました。再審を求めてから42年。昔からえん罪が疑われながら、なぜこれほどの時間がかかってしまったのでしょうか。
「いまね、ニュースが入って検察が即時抗告を断念したって。あんたは無罪。よかった、よかった、本当に。あんたの言う通りになった。57年間闘ってきただもんね」
袴田巖さん(87)。東京高裁の決定に対し、検察が特別抗告をしなかったことにより、ついに裁判のやり直しが確定しました。
再審を求めてから42年。なぜこれほどの時間がかかったのか。それは「再審法」=再審のルールに不備があるためだと指摘されています。
村山浩昭さん。2014年に静岡地裁で再審開始と袴田さんの釈放を決めた裁判長です。そして現在は、日弁連の再審法改正を目指す委員のメンバーです。村山さんたちが再審に時間がかかりすぎる理由として、まず指摘するのが「検察官による抗告」です。
<元静岡地裁裁判長 村山浩昭さん>
「もし、今回袴田事件で特別抗告したら検察官の抗告は法律で禁止しなければいけないという意見はもっともっと高まると思います。百害あって一利なし的な制度になりつつあると思いますので」
検察官には裁判所が出した決定に対して、不服を申し立てる権利があります。この権利を行使すれば地裁で行われていた審理の舞台は高裁に、高裁で行われていたものは最高裁に移り、次の決定が出るまでにさらなる時間がかかります。
実際、袴田事件でも2014年に再審開始が決まった後に検察が抗告。もう一度、再審開始の決定が出るまでに9年かかりました。抗告をする権利は弁護側にもありますが、日弁連は検察側の抗告だけは禁止すべきと主張。
「一度、再審開始決定が出されたということは、確定判決での有罪の認定に対して合理的な疑いが生じたということ。検察側に意見があったとしても、やり直し裁判で主張する機会は与えられている」としています。
さらに、審理に時間がかかりすぎるもう1つの理由が証拠開示のあり方です。
<元静岡地裁裁判長 村山浩昭さん>
「過去の事例から証拠開示によって再審が決まった事例が多いというか、ほとんどそうなんですよね」
再審についての審理では証拠の開示に法的な義務はなく、弁護側が請求しても、有罪を維持したい検察は応じず、年月ばかりが経過します。袴田事件の場合、10年ほど前に静岡地裁が検察に勧告したことで多くの証拠が開示されました。40年以上伏せられていた供述調書などその数は約600点に及びます。
開示された証拠の中には当初、検察が「存在しない」とし、犯行当時に袴田さんが着ていたとされた「5点の衣類」のネガフィルムの写真が含まれ、血痕の鮮明な赤さが今回の決定に大きな影響を与えました。裁判官として30件以上の無罪判決を確定させ、映画やドラマのモデルにもなったともいわれる木谷明元東京高裁判事は。
<元東京高裁判事 木谷明弁護士>
「裁判所に検事はベストエビデンスしか出さない。ワーストの証拠は全部隠していいという風になっちゃってるんですよ。証拠開示の規定を作らなければいけなかった。それができていないということが最大の問題ですね」
冤罪被害者救済のための制度、再審。袴田さんの42年越しの裁判のやり直し決定を受け、再審法改正の機運はさらに高まっています。
<井手春希キャスター>
Q取材をする中で、再審法の改正は進められるべきだと感じましたか。
<山口駿平記者>
「袴田事件が再審法は改正するべきと訴えていると思います。証拠開示のルール作りと検察官による抗告の禁止が再審法改正の2本の柱となっていますが、実はもう一つ再審請求に時間がかかる理由として指摘されている要素があります。それは再審請求のスケジュールが定められていないという点です。通常の裁判であればいつまでにどういった手続きを踏むべきかというルールがありますが、再審の場合はそれがなく、忙しい裁判所はその対応を後回しにしがちで、さらに後回しになったとしても責任を問われることはありません」
<井手キャスター>
Q再審が行われるかどうかは、その時の「裁判官次第」ということになるんですか。
<山口記者>
「その通りです。袴田さんの再審開始を決めた元静岡地裁裁判長の村山さんは『確定死刑囚はいつ死刑が執行されるか分からないので、早く結果を出したいという思いだった』」と語っています」
<井手キャスター>
Q裁判官の熱量に大きく左右されるということですね?
<山口記者>
「再審法改正についても村山さんは『深刻な再審事件を経験した裁判官は多くない。ルールを定めて審理しやすい状態をつくっていくことが迅速な判断につながる』と訴えています。再審という制度はいわれなき罪を言い渡された人を救済するためのものです。えん罪によって奪われた時間は決して帰ってきません」
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