「こども食堂」は、その名前から食事だけを提供するように思われがちですが、多くは大人と子供の交流の場として様々な体験ができます。中でも、世田谷区経堂にある「経堂こども文化食堂」は、名前に「文化」とあるように、幅広い文化体験を提供しているユニークな場所として注目されています。今回はその取材報告です。
クラスメイトの休日は素敵なのに。シングル家庭の支援を決意
経堂こども食堂主催者 須田泰成さん
「シングル家庭のお子さんを見ていると、文化に触れる機会が少ない気がしていました。クラスメイトの子供たちは、土日に家族で遊園地に行ったり、習い事したり、体験が豊か。でも、シングル家庭の人たちは、土日も忙しかったりして、文化体験できない。それで月曜日に学校へ行って、他の子供たちと比べたり、比べられたりして引け目を感じるみたいな、そういうことが多いんだなと感じたので、食べるだけじゃなく文化体験も同時にして、引け目を感じないような、そういった環境作りが大事じゃないかと思ったんです」

「経堂こども文化食堂」は、須田さんの周りに離婚などで経済的、精神的に苦しい人が増えたので、そうしたシングルマザー、シングルファザーの孤立を解消しようと、2016年の2月に活動を始めました。
器を作り、料理を作り、そして食べる!
最初の活動は、近所にある陶芸教室「まだん陶房」の協力を得て、自分が使うお茶碗や、おじいちゃんおばあちゃんへのプレゼントなどを作りました。


その後、みんなで鰹節を削って出汁をとり、だし巻き卵と味噌汁を作って食べたそうです。単に食べるだけじゃなく、食器作りから、鰹節を削る体験、さらに日本の出汁文化まで学べるわけです。


こども達が体験に夢中になっている間、周りで見ている親同士、自然と井戸端会議が始まります。この時間が大切で、行政でこんなシングル家庭へのサポートがあるよとか、ここで話聞いてもらえるよとか、自分だけでは知ることが出来なかった情報を得られたり、最近こんなことで困っているなど弱音を吐ける場にもなっているそうです。
将棋や落語も。様々な体験を提供
文化体験は陶芸のほかに、落語会や将棋教室を行っています。週に一度ほど将棋を教えている棋士の高野秀行六段です。
棋士 高野秀行六段
「家庭環境など全部抜きにして、こども達に、将棋教室というなにか『もう一つの居場所』があればいいなと思っているんですね。やっぱりこどもも大変ですよね、学校行けない子もいるし。将棋はお腹いっぱいにならないけど、心がいっぱいになるかもしれないから頑張ってねって言われたことがあって。こども食堂はお腹いっぱいになるので、ちょっとでいいから将棋というものがこども達の心に残ったり、あの時間楽しかったなとか、そういうのが残ってくれるといいなと思っているんです」

コロナを逆手に。全国に活動を届ける!
こうした活動は好評でしたが、それを襲ったのが新型コロナ感染の拡大。大勢で集まることが出来なくなり、常温で保存できる食べ物や図書カードを家に送るという形に変わっていきました。集まれないことは不便でしたが、この「送る」ことで新たな繋がりが生まれたんです。
須田さんのところに、支援してくれる地域のお店や知り合い、企業などから缶詰やお米がドサっと届くのですが、自分たちだけでは食べきれない。それを全国のこども食堂へ送ることで食べてもらえる、全国の人たちと繋がることが出来たそうです。また「文化体験もシェア」できるようになりました。

落語会は企業(浅田飴)の協力で開催しているのですが、この落語も、配信機材を導入することで全国のこどもたちが見られるようになったんです。
「カウンターカルチャー」街の多様性がこどもに!
実は経堂こども文化食堂では、こどもが興味を持ったことならなんでも教室をやってくれます。というのも、経堂の飲み屋さんのカウンターには「ない職業はない」くらい、いろんな人が集まるからだそうです。
須田さんが経堂という町が好きで、長く暮らし、いろんな人と触れ合う中で横の繋がりが出来て、「こども食堂を始める」と話したら、じゃあ僕はこういうことを手伝えるとか、定期的に食べ物を寄付してくれるなど。こども達から「作文が苦手」という声があれば、ライターもしている須田さんが自身の店「さばのゆ」で作文教室を開いたり、「サッカーやりたい」と聞けばコーチを紹介したり、人と人を繋いでいます。カウンターから生まれた文化なので、“カウンターカルチャー”と呼んでいるそうです。「経堂こども文化食堂」を始めて丸7年、最後に須田さんです。
経堂こども食堂主催者 須田泰成さん
「小学6年生の時に陶芸教室に来た男の子がいて、人と喋るのが苦手でお母さんも気にしていた。外に出るきっかけを作りたいというので連れてきてくれたんですけど、陶芸教室の先生がとても明るい方で、血の繋がっていないおじいちゃんみたいに慕って来てくれている間に、手先がとても器用なことがわかった。去年、第1志望の美大に受かったと連絡をくれて、遊びに来てくれて。お昼に来たから、『なに食べたい?』って聞いたら『肉が食べたい』って。なんかそういうの、嬉しいじゃないですか。」

他の子も、大きくなって今度は自分がこども食堂で手伝いをしていたり、アルバイトなど自分で稼いだお金で、食べ物を提供してくれていたお店へ食べに行くんだそうです。文化体験を通して、経堂という町の人付き合いの文化もきちんと伝わっている気がしました。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当:楠葉絵美)