作家活動を超えて―

さらに、大江さんの活動は、作品を超えて広がりを見せます―

大江健三郎さん(2011年)
「私らには、この民主主義の集会。市民のデモしかない」

2003年、自衛隊のイラク派遣が行われ、憲法改正議論が高まる中、大江さんは、劇作家の井上ひさしさんらと共に、「九条の会」を発足。

そして2014年に、集団的自衛権の行使容認が閣議決定されると、大江さんは、抗議集会に参加し……

大江健三郎さん(2015年)
「『積極的平和主義』などという戦争への自己弁護を認めているのではないか。それを大きい声で言いたい」

政治の劣化への懸念―

作家としての創作活動にとどまらず、政治に対しても積極的に声を上げ続けた大江さん。

晩年、懸念を抱いたのは、そうした社会を作る「政治の劣化」でした。

大江健三郎さん(2008年)
「いま僕は、日本の政治指導者に、10年経って、『この人はこういう人だった、こういう個人的な深さ・広さ・魅力をもった人だった、そして、こういう業績を残した』と、1人の評伝として伝記を書くことのできる政治家はいないと思うんですよ…」

そして、弱者を顧みない政治の姿勢を、改めてこう指摘しました。

「僕は、あらゆる職業の人間が、基本的な人間として畏れをもたなければならないと思っています。ところが、このところ政治家が、自分の仕事にそうでない。妙に大きいことを言う。畏れを感じない人たちが言い始めるのが、伝統とか文化とか、歴史とかについての『美しい言葉』です。言ったことが実現しなくても責任は問われない。その間、細かな現実で苦しむ弱い者は、何もしてもらえない…」

(サンデーモーニング 2023年3月19日 放送より)