「デジタルな情報を奪い合うというのは今や軍事的対立の一部分」

外交面では中国がアメリカを出し抜いた感があるが、アメリカの対中国措置はますます厳しくなっている。懸案のTikTokについては政府の公的端末からアプリを削除することに続いて、今月1日、国内でのTikTok使用を禁止する法案が下院で可決した。さらにファーウェイについては輸出許可を全面停止する措置を検討している。
そして、今度は“クレーン”だ。港などでコンテナを操作する大型クレーン。その世界シェア70%を誇る重機メーカーが、中国国営のZPMC(上海振華重工)だ。ウォールストリートジャーナルは、ZPMCのクレーンについて、コンテナの動きを追跡できる高度なセンサーが搭載されていると報じた。それにより米軍の輸送物資に関する情報を中国が入手できる懸念が生じているとした。

笹川平和財団 小原凡司 上席研究員
「自動化が進めば情報はデータ化されてどこかに格納される。製造するメーカーが中国のメーカーであれば、その情報は中国の国内法によって国が提出を求めれば提出しなければならないわけですし、そんなことをしなくても情報は既に抜かれているとも言われています。(中略)コンテナの積み荷の情報は非常に重要で、その情報は今でも売買されています。クレーンが自動化され人が介在していなければ、クレーンを識別し、デジタル化された情報が無いと運用できないわけですから、どういった積み荷がどこに行くんだっていう情報は中国に入る可能性はある。コンテナや船は軍事物資の輸送に使われますし、アメリカの海兵隊では民間の船で訓練用物資が運ばれますから、そういう情報が中国に流れる…」

元駐中国大使 宮本雄二氏
「(中国が情報を全部抜き取ることができるのかどうかは)よくわかりませんけどね…。人間が相手を判断する時は自分の基準で判断するんですよ。だからアメリカができるんですよ。アメリカはできる、だから中国もやるだろうと…。中国がやれる段階に行っているのかは専門家に聞かないとわかりませんけど…。とにかくデジタルな情報を奪い合うというのは今や、軍事的対立の一部分を明確に構成している」

SNS、家電、重機…何でも疑わなければならないのか?どこかで円滑な経済活動と秤にかけなければならない。そして、米中対立の中で最も緊迫している問題、それが台湾をめぐるものだ。

バイデン政権が台湾当局にマッカーシーに“来ないで”って言ってくれって・・・

台湾・蔡英文総統が4月上旬、訪米しカリフォルニア州でマッカーシー下院議長と会談する計画であると、英『フィナナンシャルタイムズ』が報じた。かねてよりマッカーシー議長が訪台すると言われてきたが、台湾当局が中国の反発を抑えるために訪台を控えるよう説得したとしている。しかし、言いだしたのはアメリカ側だと小谷教授は言う。

明海大学 小谷哲男 教授
「台湾当局から“来てくれるな”と言ったというよりは、バイデン政権が台湾当局に“そうしてくれ”と言ったというのが実態に近い。議長が行くとなれば米軍が動かなければならない。相当準備をして護衛をして…。万が一の想定外の反発に備えた態勢を整えなければならない。それはあまりに危険なので…。(とはいえ共和党のマッカーシーに“行くな”と言えないので)台湾側にマッカーシーに“来ないで”って言ってくれってお願いした」

中国が取り持った形で、アメリカの同盟後サウジアラビアがイランと歴史的和解し“傍観者”と見える状態になったバイデン政権。今回の蔡英文総裁のアメリカ訪問の経緯も、アメリカの力が世界で相対的に低下していることの表れなのかもしれない。

(BS-TBS 『報道1930』3月13日放送より)