中国の全人代が終わり3期目を走り出した習近平体制。新首相に腹心・李強氏を据え国内を盤石とした中国が、3月10日、世界を驚かせた。外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランが、中国の仲介で外交関係を正常化することに合意したのだ。サウジアラビアの同盟国であるアメリカは“蚊帳の外”だった。一方で、アメリカの対中国デカップリングは進む…。緊張感が一層高まった米中対立を読み解いた。

「そこに中国はうまく乗った」

イスラム教スンニ派のサウジアラビアと、シーア派を国教とするイラン。2016年以降外交関係は断絶していた両国が関係を修復することを決めた共同声明では、冒頭「習近平国家主席の積極的な提案に応じた」と中国の仲裁で話がまとまったことが明言された。

世界は衝撃を持ってこれを報じた。
『ニューヨークタイムズ』・・・過去4分の3世紀にわたって中東の中心的であったアメリカは重大な変化の瞬間に傍観者となってしまった。
イスラエル地元紙『マアリヴ』・・・中国との戦略的関係を強化せざるを得ず、もはや米国との特別な関係に甘んじていられなくなる。
中国『環球時報』・・・ワシントンには妬む声が多く上がり、中国が平和の仲介者の役割を担うことに深い不安を感じるという声さえあった。
ロシア『トゥデイ』・・・ウクライナとロシアの仲介役として自らを位置づけている中国にとって今回の仲介者としての役割は大きな外交的勝利だ。

各国とも中国の存在感を大々的に報じているが、今回の仲介、中国は“乗っかっただけ”というのは小原凡司氏だ。

笹川平和財団 小原凡司 上席研究員
「アメリカのメディアでも言われていますが(中国が主導したというよりは)サウジとイランは外交関係を回復しようという動きがあった。そこに中国はうまく乗った。中国はサウジにとって最大の輸出国。イランとは安全保障面で協力がある。中国としてはこの両国にはレバレッジ(てこの力)が効く。(中略)中国は中東で他の問題では必ずしもうまく解決していないので、今回はうまく使えた…」

元駐中国大使の宮本氏も今回のことで中東において中国がアメリカに取って代わるほど存在感を大きくするとは思えないという。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「中東のことは、私も何度も勉強しても途中で放棄するくらい難しい。歴史的にも複雑で、宗教対立もありますし…。従って中国がこういう役割を発揮できたとしても、これで中東に持続的な平和と安定をもたらすという意味での、これまでアメリカが果たしてきたような役割を中国が果たせるとは思いません。ただこれまであまりにも中東と言えばアメリカだった。そこに中国が出てきたので世界中驚いてる…」

明海大学 小谷哲男 教授
「サウジから今回の動きについて情報提供があったのでサプライズではなかった。その点で心の準備はできていたんですが・・・」

小谷氏によれば、バイデン政権に中東での課題が2つある。ひとつはイラン合意の再開。ひとつはサウジアラビアとイスラエルの国交正常化。しかし、イスラエルとイランの敵対関係からどちらの課題もうまくいかない。サウジとしては、アメリカに非NATO国への軍事支援強化と原発支援を要求しているが、今のアメリカではどちらも通らない。そこでしびれを切らしたサウジがイランと関係修復に走ったという。そこに乗っかった中国。簡単に中東でのイニシアチブは握れないというが、アメリカに取って代わるかもしれないというイメージを作り上げただけで十分価値はあるに違いない。