桃太郎像のつぶやき 2月のある日、それは明けきらぬ街角で起きた

(独白)
「思い出してほしい。今年の冬はずいぶん寒かった。あれは2月初旬のこと。東の空が白み始めた頃、正面から僕に近づく人影が。『あの、まさかいたずらとかしないよね』」

「…するとその人は、白いハットと防寒マフラーをそっとつけてくれたんだ。きっと『つんつるてんの裸ん坊ではさぞ寒かろう』、なんて気遣ってくれたんだろうね」

「ももたろう」蛭田二郎作

「僕の名前は『桃太郎』。もちろん本物ではないよ。正確に言うとブロンズ像だ。つまり鬼退治には行ったことがない。ここだけの話だけどね。僕はこの場所が気に入っているんだ。観光客もたくさん通るしね」

「お日さまが昇って通勤通学の時間帯になると、『かわいい♡』って言いながら女子高校生が駆け寄ってきてくれたんだ。『僕、結構イケてる?』 でもね、他に関心を寄せる人はいなかったよ」

「この街の人は優しいから、こうした『施し』は日常茶飯事っていうこと? それとも非日常的な出来事に巻き込まれないために無関心を装っているだけなのかな。なんだかまるで現代版『笠地蔵』みたいだ。僕には何もお礼はできないけどね」

「そうそう、そう言えば、どうやら『施し』は、僕にだけじゃなかったみたいなんだ」