金の違法採掘現場へ

「オンボロだ」。
そのセスナ機を見た時に、つい口から出そうになった。1985年製という機体は著しく老朽化していた。搭乗するのは、若干ためらわれた。

そのセスナ機でアマゾンの森の上空を飛んで1時間20分ほど。大規模に地肌が露わになった場所が見えてきた。旋回しながら急降下する。ジャングルのなかに、一筋の滑走路。当然、舗装などない。赤茶けた地面に着陸すると、古い機体が壊れんばかりに、激しい振動が体に響いた。

滑走路脇に、平屋の建物が建っていた。中に入ると、ずらりと酒のボトルが並んでいる。カウンターのような場所に貼ってあった、小さなポスターが目に入った。代表が説明する。

「『ガリンペイロ(金の採掘人)は盗賊ではない』ですよ。撮影してください。我々は、盗賊じゃないんです」

建物の傍らには、焼け焦げたショベルカーも放置されていた。捜査当局に火を放たれたという。

現地には2時間ほどしか滞在が許されないため、違法採掘の現場に向かうよう促された。ここからは、代表が雇っている56歳の作業員が案内するという。彼の顔も撮影不可だ。作業員と取材クルー合わせて4人が、1台の大型3輪バイクに乗る。小雨のなか、ジャングルの奥へと30分ほど走ると、白いテントが見えてきた。バイクを降りて、さらに泥道を歩く。激しいモーター音が聞こえてきた。そこが「金の違法採掘」の現場だった。

直径50メートル、深さ20メートルほどだろうか。地面に大きくえぐられた穴のなかでは、作業員がホースから噴出する水で土を崩していた。この土を吸い上げて金を抽出するという。

案内役の作業員が、フライパンのような鍋に砂利を入れて、何度も水で洗っていた。その鍋の中を指差し、「見ろ」という。1ミリにも満たない白い点が複数あった。

「白くなっている水銀に金が付着している」
「水銀が付着しているから金の色はしていない」

作業員によれば、かつて、この場所に水銀を大量に撒いたことから、今は水銀を使わなくても金の採取が可能で、付着した水銀を熱し蒸発させると金を抽出できるという。その水銀は大気中に出ない仕組みにしていると説明した。ただ装置などは現場で見当たらず、「環境を汚染していない」という確たる裏付けを確認することはできなかった。

先住民ムンドゥルク族の訴え

こうした違法業者の言い分について、ムンドゥルク族のジュアレス首長に伝えるとこう反論した。

「ガリンペイロが言っていることは事実ではありません。彼らは今も水銀を使っています。箱のようなもののなかで金を焼きますが、その時に煙が出ます。この煙が水銀です。煙を外に出さないようにする方法はありません。最近も、川で金採掘をしている人が金を焼いているところを見ました。煙が出て、それが下に落ちて水銀になります。ガリンペイロは金採掘を止めたくないので、今は水銀を使わないと言っているだけです」

ジュアレス首長は危機感を一層強めている。

「金の採掘によって、魚が汚染されています。汚染された魚を食べることで、私たちも汚染されます。それが現状です。いま、私たち先住民は、自分たちの健康をとても心配しています」

そのうえで、水俣病を経験した日本への期待も述べた。

「私たちは、多くの子どもが障がいをともなって生まれていることを、すでに知っています。外国、日本の人々が、私たちの問題を理解してくれることを期待しています

日本の水俣病は、1950年代前半の患者発生から、原因物質を確定するまでに、20年近くを要した。アマゾン先住民の子どもたちに広がる健康被害でも、原因の解明に向けた詳しい調査が求められている。日本の知見を活かすことはできないだろうか。

今年1月に就任したブラジルのルラ大統領は、違法採掘取り締まりを強化する姿勢を見せている。現地メディアによると、違法採掘による水銀汚染などから、先住民ヤノマミ族で、死亡や健康被害が相次いでいるとして、最高裁が1月30日、ジェノサイド(大量虐殺)などの疑いで、ボルソナロ前政権の関係当局の捜査を検察などに命じたという。

アマゾンの「水銀汚染」は容易に解決する問題ではない。今後、一歩でも前に進むことを期待したい。