「1兆8000億円」。これは東京都で新型コロナ対策として飲食店に支払われた協力金の総額です。いま、その協力金をめぐって、マネーゲームともいえる事態が起きています。中には、協力金を7重に申請したケースもあります。巨額の税金が使われる現場で何が起きているのでしょうか。


東京・江東区の路地裏に佇む、小さな飲食店。
実は、この1つの店舗スペースで7店舗分の「協力金」が申請されていた。

取材は、保健所の現役職員からの情報提供から始まった。

保健所の現役職員
「一施設で時間帯を分けて複数の営業者が許可を取得するケースがあります。
違反には当たらないため、営業者がグルであれば一施設で給付金を二重取りできるわけです」

協力金は、時短営業などコロナ対策に協力した飲食店に都道府県から支払われるものだ。


保健所の職員によると、一つの店舗スペースでも、書類上はいくつもの店の営業許可を取れるという。そのため、協力金を何重にも 申請するケースがあるというのだ。

私たちは東京都内の保健所が出している「営業許可」の一覧を辿った。

そこで見つけたのが、あの江東区の店だ。

緊急事態宣言中の去年2月以降、全く同じ住所で、立て続けに7つの店の営業許可を取っている。しかし・・・。

近隣住民
「最近の営業は全く見た記憶はない」

近隣住民によると、コロナ禍になってからこの取材の時点まで、店が営業しているのを見たことがないという。同じ場所に7つの飲食店があることについては・・・。

ーーAという店だけでなく、Bとか、Cとか・・・

近隣住民
「聞いたこともない。とにかく1回もお客さんが入っているのを見ていないんだから」

7つの飲食店の経営者はどのような人物なのか。営業許可の情報をもとに、SNSなどを辿ると、一人の男性が中心的な役割を担っていることがわかった。

その男性が私たちのインタビューに応じた。

ーーあそこで7つの飲食店を営業するのはどういうことなのか

7店舗の中心的オーナー
「曜日替わりというふうな形で。月曜日から日曜日まで7日間ありますので」


男性の説明によると、曜日ごとに別のオーナーが別の店を営業しており、7店舗が個別に協力金を申請したという。

東京都にもその通り説明しているとのことで、今年2月には申立書を都に提出している。

申立書や男性によると、すでに協力金1800万円以上が支給されていて
その他に、7店舗分あわせて少なくとも2000万円以上を申請中だという。


ーー協力金を受給するためなのではという見方もできてしまう

7店舗の中心的オーナー
「去年1月の時点では、当時の菅総理も小池知事も緊急事態宣言を延長する考えはないということをずっとおっしゃっていましたし
こちらは延長しないということをメインストーリーとして描いている。当初からそういう風に考えて行動したとお思いですか?」

ーーはい。去年1月の時点で、その後も延長されることを見込んで動いていらっしゃった。

7店舗の中心的オーナー
「だとしたらすごいですね。私予言者にでもなった方がいいんじゃないですかね」

男性は、開店した時点で緊急事態宣言が延長されることは予測できなかったと主張する。

しかし、男性のSNSには、友人だけが見られる書き込みにこんな記述があった。
緊急事態宣言の延長について報じられた日の投稿だ。


ーー「少なくとも向こう2~3年は何回もコロナ対策の宣言・要請は繰り返される」という自分の予測の勝ち。リスクを取った分だけリターンもでかいとご自身が書いている。

7店舗の中心的オーナー
「はい。何も矛盾しないと思いますけど」

ーー先ほどおっしゃっていることと完全に矛盾している。

7店舗の中心的オーナー
「それはあなたの目から見たらそうなんでしょうね」

ーーご自身も分かっていらっしゃると思うんですけど、そういうことになると普通予想できないでしょうと先ほどカメラの前でおっしゃった

7店舗の中心的オーナー
「そっか 言葉の選択を間違ったんですかね」

ーーそこは間違えたと

7店舗の中心的オーナー
「そうですね」

ーー嘘をついたつもりはないと?

7店舗の中心的オーナー
「ないです」


7つの店に営業実態はあったのか。
男性は「すべての店が少なくとも1日は営業した」と説明した。

7店舗の中心的オーナー
「営業しないと、協力金の受給要件に当たらなくなりますよね」

ーーつまり協力金の受給対象になるための営業をしたということ?

7店舗の中心的オーナー
「その点は否めないですね。逆にそれをしないと、もらえる可能性がなくなりますんで」

そもそも、1つの店舗スペースで7倍の協力金を申請することは許されるのか・・・男性に問うと。


7店舗の中心的オーナー
「ダメじゃないですか」

ーーえ?

7店舗の中心的オーナー
「制度としてダメじゃないですか」

ーー制度が悪い?

7店舗の中心的オーナー
「はい」

ーー自分は悪くないけど

7店舗の中心的オーナー
「印象操作してきますね」

ーー逆に言うと、不支給なら不支給と言ってほしいと?


7店舗の中心的オーナー
「言ってほしいです。こちらとしては、正直、いや7倍はさすがにおかしいでしょうというふうに思っています。そんなことがまかり通るんだったら、全員それをやればいいじゃないって思ってしまう」

自ら「おかしい」と認めた。しかし、このような多重申請がだめだとはどこにも書かれていないというのが男性の主張だ。

東京都に確認すると、確かに多重申請を禁止する明確な規定はないという。しかし、「『公平性の確保』や『不正受給の防止』の観点から複数の支給は認めていない」とコメントした。

男性によると、今も7店舗分の協力金2000万円以上を申請中だが、都からは、明確な説明がないまま支給は止まっているという。

7店舗の中心的オーナー
「もしこの実態がおかしいというのなら、どうして(東京都は)対話の機会を設けない?そして不支給決定をしない?ということだと思う」

ーーご自身としてはあくまでも受給対象にしてほしいと

7店舗の中心的オーナー
「そりゃそうですね。ただならなかったとしたら、ならなかったかというくらいの話なんですけど」

男性は東京都への申立書で、支給されなければ「訴訟により徹底的に争う」ともしている。

インタビューの2日後、7つの店のうち、男性の店を除く6つが「廃業届け」を出した。
6つの店のオーナーたちは「先行きが不透明なことが廃業の理由」などと説明している。

■マネーゲーム化する協力金 7重申請も…防ぐ手立ては?


小川彩佳キャスター:
東京都は多重申請があった場合、「協力金の返還を求めていく」としています。

そして、東京都への協力金の申請のうち、1万5000件が条件を満たされないものだったということなのですが、小島さん。この協力金の制度のあり方について、どのように思いますか?

東京大学経済学部 小島武仁 教授:
今回の話は制度の柔軟さというのを、逆手に取った行為だなと言えると思います。解決策は難しいですけれども、こういったことがわかるのは、内部から声を上げてもらうから、わかることが多いと思います。なので、今後制度を作りこんでいくにあたっては、内部の方が安心して声をあげられるような仕組みを確保していくことが大事だと思います。

小川彩佳キャスター:
申請する側のスタッフなどが、申請するべきではないんじゃないか?と思った時に、通報できるようなシステムが必要ということですね。