マクロン氏が直面する内なる課題

かくして躍進はしたもののルペン氏は敗れマクロン氏が再選した。順当な結果とはいえ国際社会は胸をなでおろした。ルペン氏が当選していたならば基本的に内向きな施策をとり、離脱や脱退まではしないもののEU、NATOへの関わり方は相当省力化したのではないかと思われる。プーチン大統領へのリスペクトを示していただけに微妙な距離感を保ったはずだ。ロシアという域内最大の問題国家への対応にあたり一枚岩でなければならない中でヨーロッパをまとめられる存在が失われる危機を回避したといえる。
しかし、マクロン大統領にとっては決して順風満帆ではない。かつて取材したフランス政治学者ブルーノ・コトレス氏はこう言った。「もしマクロンが国内の問題を解決できれば、国際的なリーダーとなるでしょう」。果たして2期目はこの言葉を実践できるのか。当選を決めた夜にパリで小規模なデモがあったというが、6月の下院選(国民議会選挙)で共和国前進が支持を得て主導権を握れなければ定年65歳制や年金制度の統一などの改革も実現できないだろう。また、ウクライナ情勢での仲介役に熱心に取り組むほど国内軽視と映り、物価高が進み、不満が高まって、かつての黄色いベスト運動といった社会的な危機と言えるほどの大きなうねりが再び起きてしまうかもしれない。国民、特に庶民から国内対応が不十分と映っているだけに、外交にどこまで注力できるのかは気になるポイントである。フランスの大統領は2期まで。再選を目指す必要のなくなったマクロン氏が今後どのようなスタンスをとるのか注視していきたい。
大八木友之 MBS統括編集長・JNN前パリ支局長
(2017年~2021年に特派員としてフランス赴任。前回大統領選を始めフランスの内政、ヨーロッパの政治・経済・社会を広く取材)