「スター・ウォーズ」を圧倒する日本アニメの人気と「海賊版」のリアル

野村:知名度やコンテンツ自体はしっかりと届いているのでしょうか。

中山:それがケープタウンコミコンでの驚きでした。ちょうど『マンダロリアン』が配信され、作品のキャラクターが登場していたため、一番の目玉は『スター・ウォーズ』だと思われていました。しかし、「スター・ウォーズの仮装をしている人はステージに上がってください」と呼びかけたところ、集まったのは12人ほどでした。

数千人の来場者がいる中で12人というのは意外に少ないと感じ、観客席を見渡したところ、『鬼滅の刃』のコスプレをした人々が多数いました。『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』のコスプレをしている人の方が、『スター・ウォーズ』よりも圧倒的に多かったのです。

アメリカのコミコンでは大体アメリカのアニメが8割、日本のアニメが2割程度で日本コンテンツの比率は低いのですが、アフリカのコミコンでは半分以上が日本のIPでした。さらに先ほどの『ダンダダン』のように最新の作品も登場しています。

その中でも特に『ONE PIECE』と、映画の影響もあるマリオの人気が際立っていました。また、私は行けなかったのですが、エチオピアに行った人の話によると、エチオピアで過去最大の興行収入を記録した海外映画は、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』だったそうです。

野村:それほどまでに浸透しているのですね。こうした映画・アニメとの接点はどんなところにあるのでしょうか?

中山:経済格差が激しい南アフリカに関しては、一定の所得がある人は月額1,000円程度のクランチロールを契約して視聴している場合が多いですが、海賊版が中心になっているのが実態です。特におそらく西アフリカや東アフリカでは、ほぼ海賊版がメインでしょう。

西アフリカではフランス経由で「カナル・プラス(Canal+)」が放送されていたり、中東の「スペース・トゥーン(Spacetoon)」という企業がケーブル回線を通じて南アフリカまで映像を配信していたりします。貧困層の多い地域の人々は、1ドル程度で購入した非公式のケーブル回線を利用して、『ダンダダン』などを視聴しているという状況でした。

野村:言語や字幕はどうなっているのでしょうか。

中山:ファンサブ(有志による字幕)なのか、あるいは公式のケーブル放送経由であれば、ヨーロッパで翻訳されたものが配信されているのかもしれません。言語や字幕が整った状態で配信されているのだと思います。

現地の人々には、それが違法であるという認識がほとんどありません。昨年ウズベキスタンへ行った際、テレビ東京の方と同行していたため、現地の日本語学校の生徒たちと『NARUTO』の話をしました。すると、ある生徒が「私は今、NARUTOの仕事をしている」と自慢げに話してくれたのです。

中継を聞いてみると、それはファンサブの仕事であり、違法サイトにある『NARUTO』に字幕を付ける作業でした。それをテレビ東京の担当者の前で誇らしげに見せてくれたのです。「それは私たちが許諾していない公式ではないものだ」と伝えると、「そうなのですか」と驚いていました。本人たちからすれば、有名なサイトでその仕事に関わっていることは、同世代の間で「ドリームジョブ(憧れの仕事)」のような扱いなのです。つまり、その非公式のサイトが発注元となり、現地の若者たちに仕事を供給しているという仕組みになっています。

過酷な歴史・不条理な社会と重なる『ONE PIECE』の物語

野村:アフリカにおける日本アニメの人気には、どのような背景があるとお考えですか。

中山:アフリカにおける『ONE PIECE』の絶大な人気は、現地における差別や、地域によっては失業率30%といった過酷な社会環境と深く結びついていると感じました。

2024年末から2025年頭にかけて、日本経済新聞が「新ジャポニズム」という世界における日本アニメの受容に関する特集を組みました。ウクライナで戦時下を生きる若者が『進撃の巨人』を観ながら「敵を憎んではいけない」と語る場面などが印象的でしたが、その中で、ジンバブエの30代のアニメーターが「自分はONE PIECEに救われた」と話していました。

当時のジンバブエはハイパーインフレの最中で、朝に持っていた1万円が、夜には100円の価値になってしまうような極限状態でした。お金がなく食事にも事欠く中で、作中で海軍のような巨大な権力と戦い、失われた歴史や尊厳を取り戻していく『ONE PIECE』のストーリーが、アフリカの歴史や現状と非常に重なるのだそうです。

アフリカは植民地支配を経て1960年代にようやく独立を果たしたものの、社会基盤が破壊されていたため1970年代以降もうまく機能せず、1980年代には再び厳しい時代を迎えました。そして現在も、一部の富裕層やアパルトヘイトの不条理な名残が社会を支配しています。このように、「社会は不条理であり、自分は決して這い上がれない」という絶望を感じている人々に、この物語が強く響いているのです。

会場でも『ONE PIECE』のコスプレが非常に多かったのですが、それを見た時に私が感じたのは、植民地支配の歴史によって社会を壊され、不条理な階層社会と戦い続けているアフリカの人々にとって、この作品はもはや現代の神話のようになっているのではないか、ということです。私は『ONE PIECE』は100年後にも、現地で語り継がれていると思います。

野村:現地の不条理な心象風景と、物語が重なる部分があるのですね。

中山:そして、その『ONE PIECE』の実写版が現在まさに南アフリカで撮影されているため、現地は非常に盛り上がっています。コミコンには、作中で「ジュラキュール・ミホーク」や「ミス・バレンタイン」を演じている南アフリカ出身の俳優陣が参加していました。南アフリカのスタジオに撮影を誘致しているため、現地の俳優が起用されやすいのです。「あのONE PIECEに出演している」ということで彼らはヒーロー扱いされており、トークショーは大盛況でした。

歴史的に見ると、例えば日露戦争の際、アフリカの人々は非常に熱狂したそうです。それまですべてを奪われ蹂躙されていた彼らにとって、ヨーロッパ以外の、それもアジアの国である日本がロシアに勝利したというニュースは、とてつもない衝撃と希望を与えたのでしょう。もちろん、後に日本も同じように他国を植民地支配する道を歩んでしまいましたが、当時の「非西洋の国が立ち上がった」という事実に対する興奮が、100年経った今でも根底に流れているのではないかと、様々なことを考えてしまいました。