(ブルームバーグ):中国の習近平国家主席は17日、上海で始まった世界人工知能大会(WAIC)で演説し、中国が低コストのAI開発で進展を遂げているとアピールするとともに、より開かれたテクノロジー秩序の構築を呼びかけた。
この会議に初めて参加した習氏は、「AIの発展は1つの国による独演ではなく、国際協力による交響曲であるべきだ」と述べ、世界に対して包摂的なアプローチを堅持し、対立ではなく協力を促進するよう促した。
中国のAIモデル台頭が習氏を強気にさせ、世界的なAIルール形成を中国が主導する正当性を強めている。この会議にはこれまで、テスラやスペースXを率いるイーロン・マスク氏やアリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏らが出席してきた。
多数のテクノロジー企業や各国政府の高官が参加する会議に習氏が姿を見せたことは、産業や経済を一変させ得るテクノロジー分野で主導権を握ろうとする中国の強い意欲を示している。この取り組みは中国の政策課題の最優先事項の1つだ。
世界中の企業が中国のAIモデル採用を進めている。人気のAIマーケットプレイスの「OpenRouter(オープンルーター)」では、米企業のAI利用に占める中国モデルの割合は過去最高に近い60%に達した。
習氏は「幅広い国際協力を進め、グローバルサウス(新興・途上国)の能力構築を支援することで、AIやデジタル分野の格差を埋めなければならない」と述べ、「AIで歴史的な不公正」を生み出すことがないよう取り組むべきだと呼びかけた。
中国国営メディアは今週、中国のオープンさこそが世界的分断に対する処方箋だと位置付けた。中国共産党機関紙、人民日報はAIの利用を「鉄のカーテン」で分かつことに警鐘を鳴らし、データや計算資源を囲い込む石油産業型の発想と対比。AIを万人の公共財と見なし、水の流れに例えたアプローチを提示した。特定の国名には言及しなかった。
中国は、自国民や世界の顧客に対し、米国のテクノロジーよりも低コストな選択肢となる独自のAIエコシステム(生態系)の構築を目指している。また、自国企業や政府機関が安定的に利用できるよう、AI向けのサプライチェーンを自前で確保したい考えだ。
ブルームバーグ・ニュースは先月、中国政府がこの取り組みの一環として今後5年間で2兆元(約48兆円)投じ、国内各地のデータセンターを相互接続するネットワークの整備を進める計画だと報じた。
中国政府はまた、米国への対抗で重要と位置付けるAI産業を活性化させるため、政府機関を総動員し、支援策を打ち出す見通し。同時に、米政府が供給を制限している米国発のテクノロジーへの依存を国内市場で減らすことも目指している。
こうした戦略は、米半導体大手エヌビディアの競合である華為技術(ファーウェイ)、半導体メモリー大手の長鑫存儲科技(CXMT)、さらにAIスタートアップのDeepSeek(ディープシーク)など、中国中核企業の継続的な成長とテクノロジーの進歩に依存している。
この包括的な計画は、米国で生まれたテクノロジーの代替を目指し、ファーウェイなど国内有力企業に資源を集中投入した過去の政策を想起させるが、中国の将来的なAI発展の基盤構築に向けたこれまでで最も積極的な取り組みとなる。
オープンソース
中国政府は現在、約30カ国が参加する「世界人工知能協力機構(WAICO)」と呼ばれる新たな枠組みを通じ、AIセクターを主導する米国との影響力争いを進めようとしている。李強首相がテクノロジー独占への警戒を示しながらWAICOを提案してから1年後となる16日夜、中国の王毅外相とロシアやブラジルなどの代表が上海で署名式を行った。
これに先立ち、習氏は同日、カザフスタンのトカエフ大統領との会談で、中国はカザフスタンのデジタル変革を支援するため中国のAIを共有する用意があると表明した。中国の外交でAIが果たす役割が拡大していることを示す動きだ。
WAICOは、AIの国際ルールや標準づくりへ影響力を行使する舞台を中国に提供することになる。その狙いについて、中国国内の研究者も率直に語っている。
北京大学のAI研究者、辜凌雲氏は「中国は世界最大のオープンソース活用市場であるだけでなく、主な貢献国だ。だが、国際的なルール形成における発言力は、その実力にまだ見合っていない」と主張。最高人民法院の機関誌に掲載された座談会で、中国勢によるオープンソースのAI実践を効果的に発信することで、世界のオープンソース統治を形成する能力を高めることができると語った。
しかし、公共財という理念の裏側で、中国政府は米国と同じ課題に直面している。AIモデルの能力向上が進む中、大規模な普及と国家安全保障をいかに両立させるかという問題だ。
事情に詳しい関係者によれば、中国当局は最近、人気モデル「Qwen(通義千問)」を開発するアリババなどと、より高性能になったAIモデルがもたらす安全保障リスクへの対応について協議した。協議は初期段階で、現時点で規制実施の予定はないものの、有力モデルへの海外からのアクセス制限も選択肢の1つとして議論されたという。
ロイター通信はこれに先立ち、中国政府が海外からの利用制限を検討していると報じていた。アリババと中国商務省はコメント要請に応じなかった。
こうしたスタンスは米政府とも共通する。米国は先月、国家安全保障上の理由からアンソロピックの「Mythos(ミュトス)」「Fable(フェイブル)」への海外からのアクセスを一時禁止した。このクラスのシステムは、人間の監督なしに高度に隠されたソフトウエアの脆弱(ぜいじゃく)性を悪用できる場合があるためだ。
シンクタンク、インスティチュート・フォー・プログレス(IFP)の著名テクノロジーフェロー、サイフ・カーン氏によると、「中国のAIモデルは今後数カ月以内にミュトス級のサイバー能力を獲得する可能性がある。そのため、中国政府内の多くの部門がリアルな安全保障リスクとして懸念しそうだ」という。
米中両政府による監視強化により、オープンモデルを基盤とする企業は板挟みになっている。中国または米国のいずれかが規制を強化すれば、国際的な研究ネットワークが分断され、スタートアップの成長も阻害される。
AIアシスタント開発企業リンディーAIの創業者フロー・クリベロ氏は、中国側がアクセスを遮断すればかなり大きな影響があると指摘。同社は先月、アンソロピックのモデルからDeepSeekに切り替え、AI実行コストである推論費用を90%削減したという。
同氏は、中国によるアクセス遮断があれば「米国でオープンソース分野が追い付くまで、こうしたコスト削減効果は失われる」と述べた上で、それが致命的な事態になるとは考えておらず、アルファベット傘下グーグルやメタ・プラットフォームズが中国製モデルに匹敵するオープンウエートモデルを3-6カ月程度で投入するとの見通しを示した。
原題:Xi Vows to Make AI for All in Debut at China’s Top Tech Summit、Xi Seeks Global AI Sway as Model Power Spurs Security Alarm(抜粋)
(習氏の発言などを追加して更新します)
--取材協力:Spe Chen、Colum Murphy、Lucille Liu.
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